20歳で創業した会社を40歳で上場企業にさせた経営者は、どんな壁を乗り越えてきたのか?

ビジネス

公開日:2018/4/11

『20歳で起業した僕の会社がやっと20歳になりました』(武長太郎/幻冬舎)

 二十歳の自分を思い出すとなんだか恥ずかしくなる。大学生活を謳歌し、自分のことを無敵だと思っていた。社会なんて何も知らなかった。社会人らしきものになった今、あれからどれだけ変わっただろう。読者は二十歳のとき、どんな二十歳の頃の自分で、それからどんな道を歩まれただろう。

『20歳で起業した僕の会社がやっと20歳になりました』(武長太郎/幻冬舎)は、弱冠20歳で起業した武長太郎さんが様々な苦労を乗り越えながら、会社と共に歩んだ軌跡をつづっている。武長さんは現在40歳になり、20歳になった会社「一家ダイニングプロジェクト」は、東証マザーズに上場するまでに成長した。

 本書の冒頭を読んだときは、「マジでスゲー人だ!」と二十歳のような感想がもれ出てしまったが、もちろんそれだけじゃない。成功の陰には夜も眠れぬ苦労がある。そしてそんなエピソードほど、教訓めいた学びが隠されている。

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■軌道に乗ったのも束の間、経営難に…

 20歳にして起業し、居酒屋を経営しはじめた武長さん。居酒屋経営の知識は皆無で、開店当初から目も当てられぬ状態だったが、「お客さんに喜んでもらいたい」という一心で営業を続け、共に汗を流す社員たちと毎日反省会をした。試行錯誤の連続だが、そのときの日々を「楽しかった」と武長さんは話す。

 居酒屋1号店を開店して3ヶ月後、幸運も重なって2号店を出店することになり、わずか5年で50店舗まで経営を拡大していた。驚くほど軌道に乗りまくっていたのだ。「経営って意外と簡単なんだな」と楽勝モードだったが、ここから会社が傾き出す。

 今まで誰よりもお客さんに喜んでもらうことを考えていた武長さん。しかし経営が上手くいくと、効率よく店舗経営をして利益を出す方法ばかり考えるようになった。居酒屋の現場から離れ、本社で一人パソコンと向き合って、社員を効率よく働かせるマニュアルを作るようになったのだ。

 そのうち客足が遠のき、各店舗で赤字が出るようになった。資金繰りが苦しくなった武長さんは、付け焼刃の経営手法を重ね、段々笑顔が減っていった。余裕がないときは周りに辛く接した。会社を辞める社員が増えはじめ、残った社員も暗い顔で働いていた。

■武長さんを変えた出来事

 成功から一転、倒産もチラつく経営状態になってしまったが、たった1つの出来事が武長さんを変えた。ある日、いつものように厳しい顔で店舗を訪れたとき、2人の新入社員たちが「わー社長! 来てくれたんですね! ありがとうございます!」と明るく迎えたのだ。その2人はお客さんにも笑顔で楽しそうに接している。そして武長さんが店を出るときには、「また顔出してください!」「僕らいつも元気で頑張っているんで安心してください!」と見送ってくれた。

 たったこれだけのことだ。だが、武長さんは昔を思い出していた。居酒屋1号店で仲間たちと一緒に試行錯誤しながら楽しく働いていた日々を。小手先じゃなく一生懸命に突っ走ったあのときを。店を出た後、涙が止まらなかったそうだ。この日から武長さんは原点に立ち返った。

 やがてこのようなことにも気づいたそうだ。暗い顔で接客する社員に「もっと笑顔で!」と苛立ってしまいがちだが、まずは自分が笑顔で社員と接しないと社員も楽しく働けない。「もっと売り上げを伸ばせ!」と詰め寄るのではなくて、「楽しく働けてる?」と社員を気遣う姿勢を見せる。

 相手に求めるだけでは何も変わらない。「求めると逃げて行く」ならば、まずは人を信じて自分から与える人間になればいい。そう気づいて実践しはじめてから、経営は回復していった。そして武長さんと社員たちは次のステージに向かうことになる。

■結局は「楽しいかどうか」

 紆余曲折あったものの、武長さんは常に自分や社員、そしてお店を訪れるお客さんが「楽しいかどうか」を考えた。それを実現するためにはどのように成長していくか、その時々で自分自身と向き合った。これは誰もが目指すべき生き方ではないだろうか。

 本書には20年分の軌跡と武長さんの等身大の言葉がつまっている。それだけぶ厚く、そして重みがある。上場企業の歴史を書けば当然かもしれない。では、私たちの人生も同じように書籍にしたとき、その本はどんな内容になるだろう。「もしかしたら薄っぺらいかも……」。私自身、そんな不安がよぎった。でも武長さんは本書の最後でこう述べている。

人生において成功は約束されていない。しかし成長は約束されている。

 二十歳の頃と比べて、大人になった人そうでない人。色々な人がいるように、人間の成長具合も人それぞれ。どんなときも前を向いて歩いていけば、たとえ上場企業の社長になれなくても、きっと誰でも胸を張れる人生を送れる。本書はそんなことを教えてくれた1冊だ。

文=いのうえゆきひろ