凄惨ないじめで自殺を決意した少年と、息子を自殺で亡くした父親。被害者に救いの道はあるのか? 

文芸・カルチャー

2018/4/12

『罪人が祈るとき』(小林由香/双葉社)

 デビュー作『ジャッジメント』で凶悪犯罪者に対する私的な復讐が合法になった世界を描き、復讐者の葛藤と苦悩を描いた小林由香。第2作『罪人が祈るとき』(双葉社)のモチーフとなっているのは“いじめ”だ。

 いじめを苦にした自殺は後を絶たない。自ら選んだ死とはいえ、それはもはやいじめ加害者たちによる殺人行為といっても過言ではないだろう。死んだほうがましだ――そう思ったとき、心はすでに殺されている。そして、いじめによって死んだ子を持つ親もまた、子を救えなかったことで自分を責め、どこまでも苦しみ抜く。親もまた、いじめの被害者なのだ。本作の主人公となるのは、そんないじめの被害者となってしまったふたりの人間だ。

 高校生の時田祥平は、同じ学校の先輩である川崎竜二とその仲間たちに理不尽に金を要求され、日増しにエスカレートする暴力に命の危険すら感じていた。親友に裏切られ、親との関係もうまくいかず、誰からも必要とされていないと感じている祥平は、竜二を殺してから自分も死のうと思いつめるようになっていく。

 そして、いつものように集団でリンチされているとき、彼の前に真紅の髪をした奇妙なピエロが現れる。“ペニー”と名乗ったピエロは、竜二たちを追い払い、祥平の話を聞いて「殺害計画ができたら手伝ってあげる。私たちは仲間」という。

 一方、もうひとりの主人公は、息子をいじめを原因にした自殺で亡くした父親、風見だ。彼の息子の茂明は自殺の直前、風見の携帯電話に自らの死を詫びるメッセージを残していた。茂明はいじめをした者たちの名前をノートに記し、血文字で「こいつらを呪う」と書き残したが、それは飛び散った血で判読できなくなっていた。愛する我が子の自殺の惨劇に直面した風見の妻はいじめの犯人を突き止めようとするうちに精神に異常をきたし、1年後の息子の命日に自ら命を絶ってしまう。何ひとつ救えなかった――そんな自責の念から立ち直れない風見。しかし、いじめ被害者やその親たちによる会員制サイトの掲示板で陰湿ないじめにあって「死にたい」と書き込んだ高校生を息子の代わりに救いたいと考えるようになる――。

 祥平の前に現れたピエロは何者なのか。そして、3年連続で「いじめ被害者」「いじめ被害者の母」「いじめ被害者の同級生」が同じ日に自殺した「11月6日の呪い」の真相とは。このふたつの謎と祥平と風見それぞれの苦悩が絡み合って物語は展開していく。どこにも逃げ場がなく追い詰められていく祥平、ひたすら自分を責め苛んで徒労に終わる犯人探しに疲弊していく風見、ふたりの絶望とあまりに陰湿ないじめの描写は、読んでいて思わず胸が苦しくなってくるほど生々しい。いじめの被害者を救ってくれるものはあるのか。そんな問いに著者は挑む。復讐をしたいという応報感情は人間なら誰でも持つ根源的な感情だろう。しかし、復讐をすることによって人は救われるのか? 

 本作で描かれる“答え”は、いじめ被害者を直接的に救うほど強いものではないかもしれない。しかし、それを知ることは、きっと希望のひとつになるはずだ。

文=橋富雅彦