「僕はプラスとマイナスの差が激しいんです」羽生結弦、五輪金メダル獲得の裏側

エンタメ

2018/4/16

『夢を生きる』(羽生結弦/中央公論新社)

 フィギュアスケートの羽生結弦選手が平昌オリンピックで金メダルを獲得してから、すでに1ヵ月以上経っている。しかし今でも私は、ショート・フリーの演技、金メダル決定後に羽生選手が流した涙や、表彰台に飛び乗る姿、日本の国旗をマントのように背負い、氷の上を嬉しそうに滑る羽生選手の笑顔を観ては、胸が熱くなる。

 直前に足を負傷し、決して万全とは言えないコンディションで迎えることになってしまった平昌オリンピック。さらに金メダル2連覇を期待されるという重すぎるプレッシャー。だが彼は、そんな逆境を全てプラスに変えて優勝した。

 そんな姿に、羽生選手のファンはもれなく涙を流しただろう。えぇもちろん私も……。

『夢を生きる』(羽生結弦/中央公論新社)は、あの感動の金メダルまで、羽生選手が何を考え、何を想い、フィギュアスケートと向き合ってきたのか。その成長の軌跡を、本人が語り尽くしたインタビュー集だ。

『Ice Jewels』Vol.1(2015年10月)~Vol.7(2017年11月)掲載分と、書き下ろしを加えた本書は、ソチオリンピック後のシーズンから、平昌オリンピック直前までの、羽生選手の「生の声」を読むことができる。

 本書を読むと、羽生選手があの逆境から金メダル2連覇という偉業を達成した理由が、分かるような気がする。偉そうな言い方になってしまい恐縮なのだが、インタビューを追っているだけでも、羽生選手が「成長している」のを感じるのだ。

 客観的に自分やライバルの選手、そしてフィギュアスケートそのものを分析し、多くのことを考え、実践し、トライ&エラーを繰り返す「たゆまぬ努力」の様子がうかがえた。

 そして驚くまでにストイックである。

 ソチ五輪で金メダルを獲得し、その後世界最高得点をマークして世界ランク1位になっても「(演技の出来を)手放しで喜んだ試しがない」「毎試合、悔しさと課題が残っているので、五輪も同じだろうなと思います」と述べている。

 平昌オリンピックを直前に控えたスペシャルインタビューでは、栄光の陰に隠れた、羽生選手の苦悩が語られている。普段は決して弱音を吐かず、どちらかと言うと「ビッグマウス」である彼が吐露した本心は、本書の一番の読みどころではないだろうか。

 ソチ五輪直後のシーズン。常人では想像もつかないような重圧に、「こんな気持ちは誰も分からない」と孤独感を抱えていたそうだ。また世界王者になったからこその、自分への期待も強くなり、自分で自分に重圧をかけてしまうことも。そういった苦悩や葛藤を乗り越える原動力には、家族の存在があったという。

 よく羽生選手は、メディアなどで「絶対王者」なんて呼ばれたりするが、全くその反対で、語弊があるかもしれないが、とても不安定だと思う。常にケガやアクシデントと闘い、いつでも安定して「王者」だったわけではなく、「敗ける」悲しみも、様々な事情で最高の演技ができないことの「悔しさ」も知っている。実に波乱に満ちたスケート人生を送っているのだ。

 そのことに関して、羽生選手はこう語っている。

自分でも気持ちが追い付かないくらいです。まるで、ジェットコースターに乗っているようです。勝てない時は本当に勝てないし、たくさん練習してすごく調子がいいと、ケガをする。その繰り返しです。いい時と悪い時の差が激しくて、自分でも付いて行けない時があります。

 だが、羽生選手はそういった人生の浮き沈みを、こう解釈している。

 この言葉が「深い……」と感じたので、ご紹介して本記事を締めくくりたい。

人生のプラスとマイナスはバランスが取れていて、最終的には合計ゼロで終わると思っています。だけど、振れ幅が大きいか小さいかは、その人次第。僕はプラスとマイナスの差が激しいんです。

 最後に、羽生選手は引退後の「夢」も語っている。

 こちらはぜひ本書で、お読みいただければと思う。

 4月22日に仙台市で行われる祝賀パレード……行きたい。

文=雨野裾