新宿歌舞伎町の路地裏で、元ホスト、ニート、女装家が「生きづらさ」を詠んだ108句

文芸・カルチャー

2018/4/21

『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」 アウトロー俳句』(北大路翼:編/河出書房新社)

 耳当たりのいい宣伝文句じゃなくて、尖った言葉を聞きたい時がある。柄の悪い口説き文句とか、酔っぱらって世を呪ってる時の愚痴とか、人ごみで肩をぶつけられた瞬間の舌打ちとか、そういう類の路上の咆哮が恋しい時がある。自分の内面が荒れているから、同じように荒れ狂っている内面に同調したいのかもしれない。

 屍派の言葉は、全然まろやかではない。粗削りだったり、見当はずれなところから飛んでくる球みたいに突拍子もなかったり、激しすぎたり、えげつなかったり、凄味が利いていたり、自虐がほとばしっていたり、こちらの感情を波立たせずにはいられない言葉ばかりだ。アウトロー俳句とは、言い得て妙だと思う。

『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」 アウトロー俳句』(北大路翼:編/河出書房新社)の冒頭に、「これは新宿のアウトローたちが贈る 不寛容な時代に疲れたあなたのためのアンソロジー(句集)である」と、屍派の「家元」北大路翼の一文がある。そんな句を詠んだのは、全身刺青の宇宙系ノイズ音楽家、男の娘、女子高生、介護職員、うつ病患者にニートなど、個性的すぎるメンツだ。

 収録された108の句は、社会と上手く折り合いを付けられない彼らの呟きでもあり、叫びでもあり、咆哮でもあり、自虐でもある。

「トナカイの格好のまま舌打ちす」

 トナカイのコスプレをさせられた客引きだかサンドイッチマンだかの姿が、鮮やかに眼前に現れる。馬鹿みたいな恰好で馬鹿みたいなことをさせられている男の苛立ちと自虐が、一瞬で目の前に見えるこの言葉の喚起力はどうだ。

「全員サングラス全員初対面」

 この不穏な字面。服装も背景も色んなものがどす黒いのだろうなあと想像が膨らむ。句の短さが逆に想像力を掻き立て、一語一語の迫力を強めていることが、アウトロー俳句の数々を読むと実感できる。

「薬師丸ひろ子53歳快感です」

 いいのかこれは、と思うような自由な言葉の羅列で、思わず笑わせてくれる一句もある。家元いわく、「俳句は無知なほうが良い。ひとりよがりの句でも想像をかきたてる“余白”が生まれることがある」のだそうだ。屍派の句は、その余白がハンパなく広かったり、奈落のように深かったり、読む者の胆力を試されるような部分がある。例えば、次の一句はどうだ。

「この街を出るため寒鴉の餌に」

 任侠系Vシネマ50本ぐらいの物語性が背後に見えてしまうではないか。詠まれた俳句の余白に、己の想像力が何を描き出すかという点において、屍派の俳句は、自分参加型かもしれんなとも思う。

 歌舞伎町の片隅のアートサロン「砂の城」に集まって、酒を飲みながらノートをちぎった紙に書いていく句会。そんな夜の路地裏で生まれた俳句もさることながら、巻末の作者紹介も味わい深い。ああ、こういうメンツがこういう句を詠んだのかと、もう一度最初に戻って句を読みたくなる。

 何しろ、作者紹介がこんな調子なのだ。

【神尾良憲 かみお・りょうけん】家元と同い年のゴミ世代(1978年生まれ)。初代ルンバ(掃除係)として「砂の城」の屋根裏に一年近く居着いていた。幻覚・幻聴がひどいときがある。

 こんな愛情のこもった作者紹介は未だかつて読んだことがない。で、その初代ルンバさんが詠んだのが以下の句だ。

「水母に刺された跡も話題にすらならない」

 うむ。なるほどなあ。何がなるほどか分からないが、猛烈な哀愁が押し寄せて来る。彼は大丈夫だろうか。余計な心配か。心配して思わず一句詠みたくなった。

「虫刺され ムヒはいらない 掻き潰す」

文=ガンガーラ田津美