“ハルヒ世代”のあなたにおくる人生やり直しストーリー『ぼくたちのリメイク』

文芸・カルチャー

公開日:2018/5/1

『ぼくたちのリメイク』(木緒なち:著、えれっと:イラスト/KADOKAWA)

 カラオケで曲を歌い終わったとき、画面にはタイトルや歌手の名前と共に、その曲が発表された年が出る。20代のオタクなら、学生時代に好きだったアニメのオープニングを熱唱したあと、余韻の中で「こんなに前の作品だったのかよ…!」と衝撃を受け、「そういえば、あの頃ほど何かに夢中になってないな…」なんてノスタルジーに浸ることがあるだろう。

 例えば、ハルヒの「ハレ晴レユカイ」は、2006年。今からもう12年も前である。この年は、美少女ゲームの新作が盛んに発売され、今でも語られる名作アニメがいくつも放送された。そして、12月にはニコニコ動画がサービスを開始し、オタク文化はさらに活気を帯びていく――。本作『ぼくたちのリメイク』(木緒なち:著、えれっと:イラスト/KADOKAWA)は、そんな“あの頃”に思いを馳せるオタクたちのための物語だ。

 2016年、主人公・橋場恭也(28)は、ディレクターとして勤めていたゲーム会社が倒産してしまい、路頭に迷っていた。彼は、自分と同い年のトップクリエイターたちの活躍をニコニコ動画で眺めながら、大学受験のとき、彼らと同じ芸大にも合格していたことを思い出す。あのときに、戻れたら――そんなことを考えながら、気づけば眠りについていた。

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 ふと目が覚めると、そこはなんと2006年。恭也は、“何かを変えるため”に、今度は芸大へ進むことを決め、そこで未来のトップクリエイターたちと出会うことになる。そこから、10年間のオタク知識や会社での経験を生かしながら、彼らと共に課題解決やゲーム作りに明け暮れる日々が始まる…。

 共同製作には、たくさんの壁がある。頻発する予想外のトラブルへの対処、何かに本気になることへの恐れ、クオリティと納期の天秤――そして根源にある創作意欲。誰かと何かを全力で作り上げるとき、そこには必ず痛みと絶望がある。恭也は、3巻での同人ゲーム制作において、ある“大きな失敗”をしてしまい、結果として大切なものを失う。さらに、最新4巻では、新たな舞台で再び過酷なゲーム開発に身を投じることに…。『ぼくたちのリメイク』には、ディレクター、イラストレーター、歌手、小説家などの、さまざまな“ものづくりを愛する人たち”が登場する。もがき苦しむクリエイターたちの生き様に、あなたは何を感じるだろうか。

 現在、カクヨムにて1巻の全文が公開中だ。※2018年5月15日(火)まで

【毎日更新】ぼくたちのリメイク

 私たちの前にも、無数の選択肢とルート分岐がある。“あの頃”のように、また何かに熱中してみてはどうだろう?

文=中川 凌