ぼくはいつ大人になるの? 死んだらどうなるの? 哲学者たちが答える『子どもの難問』

文芸・カルチャー

公開日:2018/5/5

『子どもの難問 哲学者の先生、教えてください!』
(野矢茂樹:編著/中央公論新社)

「大人の疑問」よりも「子どもの疑問」に対する答えを聞きたくなってしまうのはなぜだろう。子どもがどのような疑問を持っているのかも気になるが、一番は、その答えがやさしく書かれていそうだからかもしれない。子ども向けに書かれた回答は頭に入ってきやすいものだ。

『子どもの難問 哲学者の先生、教えてください!』(野矢茂樹:編著/中央公論新社)は、小学生とその保護者向けに出されている月刊誌の連載をまとめたものだ。哲学者の野矢氏が「子どもからの問い」という体裁で質問を考え、毎回異なる2名の哲学者に答えを考えてもらう連載だ。

 野矢氏によると、哲学とは「立ち止まるもの」。我々は日々「前に進むこと」を強いられているが、その圧力から身を離すのが哲学。哲学の世界では「前に進め」ではなく「さあ、立ち止まれ!」という声が聞こえるという。ではここで、少し立ち止まって考えられるような問いを紹介したい。

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■ぼくはいつ大人になるの?

 この問いに対するのはまず熊野純彦氏の回答。彼によると、大人とは「じぶん以外のもの、こと、ひとを考えざるをえなくなる」ものだという。それまでは子どもとして、ときに自分勝手、ときに残酷で、「自分以外のもの」をほとんど知らなくてよかった。しかし大人になるためには、なにか大切な物事を諦める必要があるとのこと。それを感じはじめたとき、大人になるのだという。

 続いて2人目は、野矢茂樹氏の回答。子どもの大きな特徴といえば「遊び」であると彼は言う。彼は、子どもがいつ大人になるのかは明言しないが、かわりに「一人前の子どもになる」という生き方もあると提案している。「一人前の子ども」とは、人生全体を遊びと見切る態度を身につけた人だという。彼らは、どこか醒めた目で社会を見ているが、真剣に生きている。それは「大人」を意味するのかもしれない。

■死んだらどうなるの?

 最初の回答者は清水哲郎氏。彼は「死」を「コミュニケーションが断たれ、再開することがないこと」だと捉えている。「死んだらどうなるの」という問いには「“どこにもいなくなった”なのかもしれません」と答えつつ、人々が昔から言葉によって死後の世界を創り上げてきたことを示し、存在するのかは分からないものの「そう言い張ってもいいのです」と答える。

 続いて雨宮民雄氏。「死んだらどうなるか」という問いは、ときに生きることから逃避する投げやりな姿勢の現れともなると彼は言う。しかし、同時にそれは人類の生き残り作戦のひとつではないかと思われてならないという。人類は死を絶えず思い起こすことによって、たった一度の人生の質を高めようとしている。訪れるか分からない「未来」が当たり前に来ると思い描いて生きるように、「死」を思うことでリセットの利かない人生を良いものにしようとしているのだ。

 いかがだっただろうか。ひとつの問いに対して2人の哲学者が答えるという形式は贅沢であると同時に、視点の違う見方を体験できる。本書には他に「勉強しなくちゃいけないの?」「友だちって、いなくちゃいけないもの?」という子どもらしい問いから、「神様っているのかなあ?」「心ってどこにあるの?」という大人も気になるような深遠な問いもある。全22問で、答えはひとりの哲学者につき1ページ半と、サクサク読み進めることができる仕様。前に進み続ける人生、何かを立ち止まって考えたいときに本書を開いてみてはいかがだろうか。

文=ジョセート