出会い系サイトでその人にぴったりの本をすすめる?! 現役書店員が贈る予測不能の実録私小説

文芸・カルチャー

2018/5/18

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(花田菜々子/河出書房新社)

 本を読みたい、買いたいと思ったとき、私たちがとる行動といえば、本屋に行く、ネットで探す、雑誌や書評サイト等でおすすめの本を探す……大体こんなところだろう。でももし、本に関する膨大な知識を持つ“本の専門家”が、自分一人だけのために、自分に最もぴったりの本を紹介してくれるとしたら?

 そんな、想像したらかなり素敵なシチュエーションを、ネットを使って実践した人物がいる。『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)の著者、花田菜々子さんだ。

 花田さんは、書籍と雑貨の店で有名な「ヴィレッジヴァンガード」に12年勤めた後、いくつかの書店を経て、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」の店長をしている。1年で1万3000点の書籍を一人で発注していた経験も持つ、“本のプロ”だ。本書はそんな花田さんの実体験をもとに書かれた自伝的小説である。

 夫との関係がうまくいかず、狭い部屋を借り一人暮らしを始めた主人公の菜々子。先行きが見えない不安の中で、〈もっと知らない世界を知りたい〉と思っていた矢先、〈X〉という奇妙なウェブサービスを見つける。〈「知らない人と30分だけ会って、話してみる」〉というサービス内容を目にし、直感的に〈あ、これかも〉と思い、登録をした。〈「1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」〉とのプロフィールを添えて。

 勇気を出して全く知らない相手のアポをとり、会ってみる。〈X〉には実にいろんな人がいた。会うなりいきなり手品を披露しだす男。年収5000万だと嘘をつく男。既婚者のくせに下心丸出しの輩。真面目で親切な人もいた。女性とも会った。

 でも菜々子は、たとえ相手がどんな人間であろうと、100%真剣に向き合う。「出会い系にはこんなヤバい奴がいてさ~」と面白おかしく書き立てて相手を蔑むようなことはしない。小説、エッセイ、漫画問わず、とにかく「その人にぴったりの本をおすすめする」という軸が全くブレないから、読んでいて応援したくなる。菜々子みたいな人に会える出会い系なら是非とも利用したくなる。

“本のプロ”を自負する菜々子でも、時にはうまくいかないこともある。本をおすすめしたからといって、相手が必ずその本を買って読むとは限らない。逆に、かなり本に詳しい猛者もいて、これはどうかあれはどうかとすすめても、全て「読んでます」の一言でバッサリと斬られることも。また、たとえ本を読んでくれたとしても、後になって吐き気がするほど気持ち悪い性的な返信メールを寄越す奴もいた。

 しかし、いったんは悩み傷つきながらも、その体験を乗り越えて、いかにうまく本の紹介をすべきかを次々と考え出していく菜々子。まるでRPGの主人公が次々と敵と戦ってレベルアップしていくようで、読んでいて爽快ですらある。

 菜々子の活躍を読んでいると、この世には必ず自分にぴったりの本があるんだという希望が持てる。数多ある本の世界の扉を開き、おいでと手招きされているような気になる。普段本をあまり読まない人、もう長らく読んでいない人、何から読めばいいか分からない人に、まずは本書から手に取ることをおすすめしたい。

文=林亮子