ガンで入院した先生に会いたい――3人の少年の心温まる道中を描く、大人が読んでも泣ける児童書

文芸・カルチャー

2018/5/22

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『カーネーション・デイ』(ジョン・デヴィッド・アンダーソン:著、久保陽子:訳/ほるぷ出版)

真実は、重要なのは最後の日じゃないということだ。絶え間なくつづく日々の中の、とある一日。あとになり、ときどきふりかえって思い出すような、そんな一日が大切なんだ。そういう日を、『カーネーション・デイ』と呼ぶことにしようか。

 児童書『カーネーション・デイ』が2016年にアメリカで出版されると、たちまち大絶賛を呼び起こした。さまざまな媒体で「2016年ベスト児童書」にランクインし、全米英語教師協議会による「Chalrotte Huck Award」のオナーブックにも選ばれている。しかし、そんな賞の数だけで本作の素晴らしさを説明するのは野暮だろう。『カーネーション・デイ』(ジョン・デヴィッド・アンダーソン:著、久保陽子:訳/ほるぷ出版)は子ども時代に読めば人生に期待を広げられ、大人になっても童心に立ち返らせてくれる物語なのだ。

 冒頭、アメリカのとある小学校で、トファー、スティーブ、ブランドの仲良し3人組が女子とケンカしているシーンが描かれる。止めに入ったのは3人の担任、ビグスビー先生だ。さっきまでわんぱく小僧そのものだった3人は、ビグスビー先生に言われるがまま素直に謝ってみせた。そう、トファーの言葉を借りれば、ビグスビー先生は「いい先生」だった。しかも、3人には自分の胸だけに留めている、ビグスビー先生を大好きな理由があった。3人が学校を楽しみに通っていたのは、優しくてユーモラスなビグスビー先生がいたからだ。

 しかし、ビグスビー先生は終業式を待たず、3人のクラスから去ってしまう。すい管腺癌を患い、治療に専念するためだ。先生がいなくなり、毎日朗読してくれていた『ホビットの冒険』の続きは分からなくなってしまった。最後の出勤予定日より前に入院してしまったので、企画されていたお別れパーティーも開かれなかった。しかも、先生は遠い町の病院に移ってしまうという。先生が今までの病院にいる最後の日、3人は決意する。会いに行くなら今日しかない! かくして、生まれて初めて学校をサボった少年たちの冒険が始まった。そう、まさしく指輪のために山あり谷ありの旅に出かけたホビットのように。

 男の先生に見つかって怒られそうになったり、子どもだけでワインを買おうとしたり、3人の道中は波瀾万丈でドキドキする。だが、それだけが『カーネーション・デイ』の魅力ではない。冒険の1日を通して、3人の抱えた孤独やコンプレックスが描かれ、成長のきっかけを与えられていく様子が鮮やかなのだ。

 たとえば、トファーは絵の才能に恵まれているにもかかわらず、両親からかまってもらえていない。スティーブは完璧な姉のクリスティーナとことあるごとに親から比較され、プレッシャーを感じている。3人の中でもっとも大人びた性格のブランドは、父親が事故で半身不随になっていた。ショックから立ち直れず、無気力になった父親をブランドはたった1人で支えている。そんな3人の孤独に寄り添い、励ましてくれていたのが他ならぬビグスビー先生だったのだ。

 それでも、子どもだけの冒険は大きな障害にぶつかってしまう。そして、3人の友情にもヒビが入り、先生に会いに行く計画は台無しになりかける。困難をどうやって3人が乗り越えたのか、そして大好きな先生に会えたのかはぜひ、読者自身で確かめてほしい。ひたむきに誰かを思う少年たちの心に、熱いものがこみあげるだろう。

『カーネーション・デイ』は、大切な人との出会いで人生が輝く可能性を我々に教えてくれる。それは3人のように友達や先生かもしれない。家族や恋人かもしれない。そして、大切な人と過ごした時間は、いくつになっても忘れることはないだろう。あなたはビグスビー先生のような人と出会えただろうか? そして、いくつのカーネーション・デイを数えられるだろうか?

文=石塚就一