『仕事は2番』、あなたにとっての“1番”は? 疲れた心を癒すお仕事小説が登場!

文芸・カルチャー

2018/6/11

『仕事は2番』(こざわたまこ/双葉社)

 新卒で入社した当日、そんな気持ちは抱かなかった。けれど、新人研修が終わり、ゴールデンウィークが過ぎ、配属先でひと通りのルーチンワークを教わると、ぼんやりとした諦めがやってきた。ああ、自分はこれから40年も働かなくちゃいけないのか。『仕事は2番』(こざわたまこ/双葉社)の発売は5月の中旬だったから、今年社会に出た人たちが、そんなふうに考えていたころかもしれない。

 定年を仮に60歳としても、大人になれば、約40年のあいだはどうにかして“仕事”とつき合っていかなければならない。自分の口を養うために、家族の暮らしを支えるために、自分の想いをなんらかの形で実現するために。しかし当然、それがうまくいかなくなるときもある。本書の登場人物は、そんな人生の段差につまずいてしまった人ばかりだ。

 不相応な中間管理職に就くことになり、課内の人間関係に悩むアラサー女子。夢を捨てて就職したものの、職場にも家庭にも居場所を失くした中年課長。有休も残業代もしっかり貰うが、ママさん社員を“応援”する風潮には割を食っている気がする独身女子。仕事や家庭のストレスから酒に走り、酒癖の悪かった父親のことを理解しはじめる営業課のボス。裕福な家庭で甘やかされ、コネで入った会社も休職し、自分にも周囲にも苛立っている新卒女子。仕事をしている人ならば、収録された6つの短編に登場する人物のいずれかに、自分を重ねてしまうことだろう。

 中でも読ませるのが、本書の最後に収録されている短編「最後の日」だ。

 主人公の幸雄は、退職を控えているが、先の自分がうまく想像できずにいる。家族のことを思えばこそ仕事に打ち込んできたけれど、そのせいで家族を顧みることはできず、実の息子にまで他人の顔をされる始末だ。そんな幸雄が、退職にあたり、世話になった社長の息子・栄太に業務の引き継ぎをすることに。だが栄太は、挨拶や返事すらまともにできない若者だった。話の通じない栄太に、幸雄はいつしか息子の面影を重ねるようになり、息子とは叶わなかったコミュニケーションを、職場の後輩である栄太とのあいだで再構築しようとする。

「自分にとって会社とはそういう場所だったのだ。自分が何者かになれる場所。誰かに、何者かを問われる場所。」

 幸雄は、仕事から離れてしまえば何者でもなくなる自分に怯えていた。肩書きを失くしたとき、自分はいったい何者として目の前の他者に向き合えばいいのか。そもそも、自分とはなんなのか? そこに至るまでの5篇でも、主人公たちはその問いに対し、自分なりの答えを迫られる。この仕事は、自分に合っているのだろうか。自分は、どんなふうに働きたいのか。働いてなにを得るのか、なんのために働いているのか。

 働くことは、とりもなおさず自分を見つめ直すことだ。仕事という手段に追われていた6人の主人公たちは、働くことの主体であったはずの“自分”を取り戻していく。そして、希望に満ちたラストシーンを読み終わり、本を閉じたわたしたちに、本書のタイトルはダイレクトに問いかけてくる。──『仕事は2番』、それでは、あなたにとっての“1番”は?

 7人目の主人公は、本書を手にしたあなたかもしれない。

文=三田ゆき