「必要ない」「二度とやりたくない」…日本最大のブラック組織、PTAの実態に迫る

社会

2018/6/29

『PTA不要論』(黒川祥子/新潮社)

 Twitterで「PTA」と検索すると、出るわ出るわ、阿鼻叫喚のツイートがわらわら流れてくる。PTA会長に不満を抱く投稿、学校に不信感を抱く投稿、忙しい身を削ってPTAに参加する投稿など、「PTA」と「悲壮感」がセットになっている。メインでツイートしているのは母親のようだ。なかには肯定的な投稿も見かけるが、筆者が調べた感覚では4:1で怒りや嘆きの方が多かった。

 小学校に入学する上で避けて通れないのが「PTA」だ。本来、子育てに励むパパママを応援する立場であるはずの組織が、なぜ親を、それも母親を苦しめているのか。その実態を『PTA不要論』(黒川祥子/新潮社)より覗いてみたい。

■恐怖の役員決め

 本書は、著者でノンフィクション作家である黒川祥子氏がPTAという組織の実態を解明するため、全国の母親たちに取材し、専門家に意見を求め、さらにこのブラック組織が今の時代に必要なのかどうか、あらゆる角度から考察した1冊だ。

 そのため本書には母親たちの生々しい証言が並んでいる。たとえば「恐怖の役員決め」だ。共働きやシングルマザーが激増する今の時代、PTAに従事できる人材を確保するのは難しい。その結果、東京23区に住む萩野早希さん(仮名)は、以下のような体験をした。

 フルタイムで働く早希さんは、18時までの学童クラブと自身の仕事をどう両立するか、世間で言う「小一の壁」に悩んでいた。その不安を解消するために初めて参加した保護者会だったが、そこで驚愕の光景を目にする。

 保護者会が始まって30分ほど経った頃、担任の先生による小学校生活の過ごし方の説明を遮って、PTA本部役員が教室に乗り込んできた。担任は自身の話を終わらせてあっという間に教壇を彼女たちに譲った。その教壇に立ったのは、明らかに年上のベテランママ3人。妙な貫録を漂わせ、役員の1人がこう宣言した。

「これからこのクラスのPTA役員決めを行います。クラス委員長を含めて4人です。役員が決まるまで全員帰れません。いいですね」

 気がつけば、残る2人のベテラン役員が教室の出入り口で仁王立ちしている。保護者会で小学校生活について聞くはずだった親たちは、突如「役員決め」のために軟禁されたのだった。

■時代錯誤を貫く日本最大の組織

 小学校で誰もが経験した、絶対に終わらない「帰りの会」を連想させるこの体験談。時代錯誤もいいところだが、本書ではこのような内容がいくつも紹介されている。

 パートの時給以下で集計を行うベルマーク活動、副校長の厳しい検閲の下で制作される広報誌、親たちから忌み嫌われ拒否され続ける役員推薦委員会、旧態依然の名簿作り、人員として駆り出される地域のイベント、平日の昼間に行われる講演会への参加依頼など、読んでいて開いた口が塞がらなかった。これがPTAなのか。これが現代の教育を支える組織なのか。

 あらゆる疑問が脳を渦巻くが、その前にPTAそのものについて説明したい。PTAとは、学校ごとに保護者と教職員によって組織される、幼児・児童・生徒を支援する日本最大規模のボランティア団体だ。その活動は多岐にわたるためすべてを書き出すとキリがないが、本書を読むと一言でまとめることができる。「学校の女房役」だ。「お手伝いさん」と表現してもいいかもしれない。

 なぜ「女房」、つまり女性を連想させる言葉を使うのか。それは、PTAが旧態依然で時代錯誤的な組織だからだ。異常な手間ひまと非効率を重視した作業、ひと昔前の専業主婦しか参加できないような時間帯に「頻繁」に開かれる役員会や講演会。そのためほとんどの父親は参加することができず、母親たちが「女の労働力はタダ」と言わんばかりの扱いを受けている。全国の母親が本書で怒りの声をあげているのも無理はない。

 こんな組織ならば辞めたくなるのが当然だ。というより、そもそもPTAは「任意加入」だ。親の都合が悪ければ、無理に役員になる必要はない。だが、その事実を「ひた隠し」にして、PTA役員が強制的に決められる現実がある。タダの労働力を確保するため、前述の恐怖の役員決めが行われるのだ。

 そしてもう1つ。PTAを辞められない陰湿な理由がある。子どもたちが人質にとられているのだ。「卒業式で配られる紅白まんじゅうをあげない」「何かのイベントで配られる粗品をあげない」など、子どもも呆れかえるいじめが行われる。教育を支える組織であるはずが、本末転倒もいいところだ。

 そのため今日も母親たちは、子どもと過ごす時間を削って、自分の時間と体力を犠牲にし、PTAに参加する。同じ役員たちによる女性特有の陰湿ないじめやウワサに耐えながら、子どものためとは思えない作業に従事する。

■PTAは必要か?

 ここまで戦後70年続くブラック組織の実態の一部をご紹介した。読者がどのように感じたにせよ、PTA役員のなり手がいない時点で、組織として機能していないのは明白だ。本書の最後の章では、黒川氏が母親たちに「PTAは必要か?」という疑問をぶつけ、そこで得た回答を載せている。

「必要ない」「二度とやりたくない」「PTAは必要だと思うが、今の在り方には疑問がある」など、すべての人が「今のPTA」を不要と感じているようだ。また、全国のPTAの中には、人権も無視するような行為に耐えきれなくなった親たちが裁判を起こした事例もある。今のままでは間違いなく不要だ。こんな組織は必要ない。

 このため、一部のPTAでは存続を目指した改革が起きている。トラブルの温床である保護者会を一掃したり、地域で開かれるイベントの手間を見直したり、今の時代に合ったPTAを目指すところも出てきている。

 これは日本の教育に関わる問題だ。今まさに疑問を感じている親御さん、これから親になる若者たち、そしてPTAに関わったことのあるすべての人々の間で、この問題を考えなければならない。

「PTA不要論」。全国でこの議題に火を点け、みんなで話し合いたい。正しいPTAの在り方を考えたい。

文=いのうえゆきひろ