セックス、結婚、老い…話題にしにくい、でも知りたい「隣の女性の隠しごと」

文芸・カルチャー

2018/7/5

『正しい女たち』(千早茜/文藝春秋)

 女子会にママ会と、女というのはいくつになっても集まっておしゃべりするのが大好きだ。仕事の話、美容やダイエットの話、好きな男性アイドルの話、そしてもちろん恋愛話と、話題は次から次へと尽きないものだが、とはいえリアルなセックスの話や、浮気や離婚など、あまりにもプライベートな暴露系はやんわり避けられるもの(もちろん話し相手との距離次第だが)。でも、この手の「話題にしにくいこと」こそ、実は最大の関心事だったりするものだ。

 千早茜さんの新刊『正しい女たち』(文藝春秋)は、そんな話題にしにくいことを「正しい姿」という共通のモチーフで鮮やかに描いた短編集。読んでいるうちに、まるで誰かの生活をそっと覗き見するような奇妙な感覚を覚える。

 たとえば「不倫」を描く「温室の友情」。大学までエスカレーター式の私立中学で出会って以来、ずっと一緒だった女ともだち・恵奈が不倫の泥沼でじわじわとバランスを崩していく。その姿を心配しながら、どこか苛立ちを覚える遼子。それは不倫そのものが倫理的に正しくないからではなく、大切な友人を(自分の)好ましくない姿に変えてしまうから。自分たちの友情そのものを壊しかねないものは脅威であり、遼子にとっては圧倒的に「正しくない」ものなのだ。

 そうした女ともだちの裏にある黒々とした「見栄」や「嫉妬」をあぶりだす「桃のプライド」は、二流タレントとして活動する環が主人公。30代ではっきりしてきた女ともだちとの人生の格差に強烈に嫉妬し焦りながらも、「おしゃれで美人でセンスがいい私」を自己演出し、中毒のようにインスタを盛りつづける環。そこまでしてプライドを守るグロテスクな姿は、果たして正しいのか。一見、華やかに盛り上がる女子会だが、互いを観察して値踏みし、微妙に本音を隠しあう裏の顔があるのを覗き見るのは、なかなかスリリングだ。

 そのほか、「幸福な離婚」は不幸であるはずの「離婚」が、まるで違った景色になる不思議な物語。どんなにラブラブだった2人でも、結婚生活が長くなるに従い暮らしは色彩を失い、互いの不満ばかりが蓄積していく。多くの人はそれをやり過ごすが、相手を追い詰め傷つけあい続けるようなら、離婚を選択するほうが「正しい」のかもしれない。すでに離婚を選択した夫婦が、離婚までの日々を静かに豊かに過ごす姿を描くこの物語では、限りがあるからこそ2人の時間がかつてないほどに輝く。そんな穏やかな幸せが、むしろ手放したから訪れたというのも皮肉なものだ。

 そのほかセックスや老いなど、話題にしにくいことを体温低めながら鮮やかに描く著者の筆力は絶妙。どこにでもいそうな普通の人々なのに、ゾクリとしたり苦い後味が残ったり…「話題にしにくい」のは世間体が気になるからではなく、思わず自分の心の奥が露呈するようで潜在的に怖いからなのかも。あなたもこの本で、自分の中の黒さにヒヤリとするかもしれない。

文=荒井理恵