子どもが通う保育園が天国から地獄へ!? ——「保育格差」の実情がついに浮き彫りに

出産・子育て

公開日:2018/7/14

『ルポ 保育格差』(小林美希/岩波書店)

「保育園落ちた日本死ね!!!」―2年前、日本に衝撃を走らせたブログのタイトルだ。このブログを機に、一億総活躍社会を旗印に子育て支援に取り組む日本政府の姿勢が改めて問われることとなった。この言葉が話題を呼んでから2年がたつことは先述の通りだが、その間に行政は急ピッチで保育所の増設を進めてきた。待機児童は一部の自治体では徐々に減りつつあるものの、一方で新たな問題が湧き出てきたのもまた事実だ。保育士が全然足りないのである。これを解消しようと大量の保育士を確保したのはいいものの、経験の浅い若手保育士があふれ、保育所での保育の質の悪さが目立ってきている。

 本稿では、待機児童問題や保育士の処遇問題、そこから生じる保育所での保育の質の問題などさまざまな角度から日本の子育て支援の在り方に迫る『ルポ 保育格差』(小林美希/岩波書店)に基づいて、日本の保育所問題の諸相をあぶりだしていきたいと思う。

■園児に対する虐待の横行する保育現場

「お前なんか、ずっと立ってな! なんで出されたと思ってんだよ。入れてやんない!」——ある保育園児が着替えの際に保育士の思い通りに動かなかったことで、教室から締め出されてしまった園児に対する保育士の発言だ。これはとある保育園の4歳児のクラスではしばしば見られる光景だという。

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 お迎えの時間になってもまぶたを真っ赤に腫れさせてびくびくしているその園児が、保護者のもとへと引き渡される。保護者が事情を尋ねると、保育士は「○○くん、今日はお友達といっぱいケンカしたんだよねー?」と平気で嘘をつく。みなさんは自分の子どもがこのような保育園に通っているかもしれないと思うとゾッとするのではないだろうか。もちろん、これはとある保育園での園児に対する虐待の中でも極端な例だ。すべての保育園がそうではないことに留意してほしい。

 こうした事態が生じてしまう背景には、保育士の給与面での待遇の悪さやそれに起因する保育の質の低下があると考えられる。そしてまた、待機児童の解消が急がれる中での保育園の設立ラッシュ。それに合わせて能力を問われないまま採用される保育士や園長が増えてきていることも保育の質の低下の原因になっていると思われる。わたしたちは待機児童問題というある意味では表面的な問題を出発点にして、その根底にある問題やそこから生じる新たな問題についてじっくりと考えなければならなくなってきている。

■一斉保育からの大逆転―安心して預けられるハンガリー型保育園

 先に述べたような恐ろしい保育園がある一方で、一斉保育をやめて子どもがそれぞれ好きな遊びを選んで集中できるよう保育士が支える「ハンガリー保育」をはじめた保育園がある。それは茨城県那珂市にある瓜連(うりづら)保育園だ。那珂市は茨城県の県都である水戸市に隣接しているベッドタウンで、一時期人口が増加していた都市だ。こうした状況から那珂市における保育需要は当然のことながら増加した。実際にいくつかの保育園が受け入れる子どもの数を増やしている。

 そんな那珂市の瓜連保育園が「ひとりひとりを大切に育てる」ハンガリー保育をはじめたのは先に述べたとおりだ。この保育園が保育の方針を切り替えたのは園児数の増加がきっかけだったという。園児数が増えればますます一斉保育のほうが効率のいいように見える。

 しかし、そうすると園児どうしの嚙みつき合いやケンカが増え、園児を支える保育士のほうもかえって疲弊してしまうのだという。こうした中でのハンガリー保育の導入は現場にとって画期的なものだっただろう。ひとりひとりの子どもたち、あるいは子どもたちどうしの小さなグループがそれぞれ思い思いに集中して遊ぶことで、ケンカなども少なくなり、保育士の負担も大きく減ったという。

 ここまで、保育の質が劣悪な事例と非常に質の高い保育をおこなっている事例を見てきた。念押しにはなるが、すべての保育所の現場環境がひどいわけでもないし、かといって質の高い保育を実施している保育所に問題点がまったくないわけでもない。しかし、こうした保育園の間でいわゆる「保育格差」なるものが存在していることは事実である。

 この「保育格差」は、政府・行政の制度設計やその実施方法、保護者の意識、保育士の意識などさまざまな問題が複雑に絡み合って生じているものである。どうしようもなく絡み合った糸を解きほぐすときに慌ててしまうと余計にこんがらがってしまう。「保育格差」はまさにさまざまな要因が複雑に絡み合った糸だ。「保育格差」を解消するために、保育にかかわる人だけでなく市民であるわたしたちひとりひとりが問題意識をもって知識をつけ落ち着いて解決策を探ろうという姿勢が大切なのではないだろうか。

文=ムラカミ ハヤト