1匹いたら100匹? 3億年前から生きていた? 嫌われ者・ゴキブリがちょっぴり好きになる一冊

暮らし

2018/7/18

『くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑』(盛口満/岩崎書店)

 夏といえば、子どもの頃はよく虫取りに出かけていた。ヤブの中でカブトムシやクワガタを見つけたら、それはもうめっちゃハイテンションになった記憶もあり、だからだろうか。夏はどうも“虫の季節”なんてイメージもわいてくるものだ。

 地球上にはさまざまな生きものが生息しているが、ただ一つ、そのなかでどうしても嫌悪感をぬぐえない虫がいる。ひと目見ただけで強烈なインパクトを残すビジュアルと、ネイキッド・スネークばりのステルス能力を併せ持つ“ゴキブリ”である。

 その言葉を綴っているだけでも、何だか口の中がむずがゆくなってくるような感覚にとらわれるのだが、大人になった今、もう一度彼らとじっくり向き合ってみようと一冊の本を手に取ってみた。タイトルがそのものズバリな『くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑』(盛口満/岩崎書店)である。

 表紙からして人の手のひらか、小顔な人の顔面サイズでさまざまなゴキブリのイラストが描かれているのが強烈な一冊であるが、この本を読むと、ひょっとしたら愛らしい存在に感じられるかもしれない。

◎人間の大先輩! 3億年前からゴキブリが生きていたのは本当!

 巷には、ゴキブリについてのさまざまな噂も流れている。そのなかでパッと思い浮かぶひとつは、やはり「3億年前から生きている」という話だろう。この本によればどうやらその話は本当のようで、人間のはるか先輩にあたるそうだ。

 ゴキブリの祖先は、英語で「ゴキブリのような昆虫」という意味を持つ「ローチロイド」という生きものだったという。ただ、驚きなのはゴキブリも年代により、モデルチェンジを図っていたということ。そもそものローチロイドは全体の形は現代の彼らと似ているものの、翅(はね)が大きく、セミのように翅に縦横の細かな筋が入っていたり、お尻にまっすぐ伸びた産卵管を持っていたりと違いがあった。

 現代のような姿になり始めたのは、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀といった恐竜たちが生きていたとされる中生代。今から2億3000万年前から6500万年前までの間にあった話で、翅がシンプルになったり、産卵管がなくなったりといった変化を伴い、やがて、人間の住みかへと入り込むようになったという。

◎1匹いたら100匹? そうとはいえないゴキブリの長い長い人生

 たった1匹を見かけただけでも、数日間か、ともすれば数週間にわたり人間に恐怖を与えかねないゴキブリ。よく「1匹いたら100匹はいると思え」とまことしやかにささやかれているが、実は、そうともいえないらしい。

 この本の著者は、実際に飼育した研究結果も公表している。それによれば、日本の住宅でもよく見かけるヤマトゴキブリは、卵から孵化するまでが40日間。その後、幼虫から成虫になるまでは667日間もかかったそうで、いずれも日数はえさや温度といった環境によっても左右されるようだ。

 ちなみに、成長の経過を観察するなかで、珍しいのはゴキブリの脱皮。ほかの昆虫と同じで、脱皮したばかりのゴキブリの体はやわらかく、外敵からの攻撃にも弱いことから夜間や目立たない場所で脱皮するのだという。

 この本によれば、幼虫から成虫へ変わるまでにワモンゴキブリが11回脱皮したという話もあるが、いずれにせよ、卵から孵化したすべてのゴキブリが必ずしも成虫になれるわけではなさそう。それを考えると「1匹いたら100匹」というのは、だいぶ誇張された表現のようにも思える。

◎天敵のハチやキノコ…ゴキブリだって生きるために必死!

 人間からすると、その存在感からか“昆虫界の覇者”みたいなイメージもつきまとうゴキブリ。しかし、彼らにだって天敵は存在する。

 ゴキブリがそもそも人の家に住みつくようになったのは、外敵から身を守るという意味もあった可能性があるという。対して、野外で暮らすゴキブリはつねに生命に危険があり、著者の研究によれば、野鳥の胃の中からゴキブリが発見されたこともあるそうだ。

 天敵としては例えば、南の島に住む「ミツバセナガアナバチ」もその一種。ゴキブリに麻酔をかけ、巣まで運び自分たちの幼虫のエサにするのだという。他にも、屋久島には彼らにとりつき殺して生える「ヒュウガゴキブリタケ」がいたり、ゴキブリの卵に寄生して成長する「ゴキブリヤセバチ」がいたりと、彼らも身を守るために必死に生きているのだ。

 当初、この本について書こうと意気込んでいたものの、正直にいえばページを触るのすらはばかられるような自分もいた。しかし、読み進めていくうちにだんだん慣れてきて、ちょっぴり愛着を持てるようになった感覚もある。みなさんもきっと図鑑を手にすれば、彼らとの距離をわずかでも縮められることだろう。

文=カネコシュウヘイ