“つきまとい”をする人間たちの心理――女性の靴に異常に執着する変態男、家を出た娘を監視・干渉する毒母…

文芸・カルチャー

2018/8/9

『ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係』(KADOKAWA)

 特定の対象への一方的な好意、あるいは憎悪から執拗なつきまといを繰り返す“ストーカー”。60万部突破のベストセラー『殺人鬼フジコの衝動』をはじめ、人間の暗部をえぐり出すような“イヤミス”の旗手として知られる真梨幸子の新刊『ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係』(KADOKAWA)は、このストーカーたちの異常な心理、その闇が物語のモチーフになっている。

 警視庁警察安全総務課ストーカー対策室特別対策ゼロ係――通称「ストーカー対策室ゼロ係」では、“和製レクター博士”とあだ名される未決囚のもとへ事件の詳細を持ち込み、ストーカー犯罪のプロファイリングを行っている。そこから明らかになっていくのは、“つきまとい”をする人間たちのグロテスクな心性だ。

 ファンを囲い込んで詐欺まがいの“信者ビジネス”を企てる作家、離婚した夫の新しい妻に脅迫メールを送りつける元妻、女性の靴に異常に執着する変態男、ダメ男を追い求める人気ブロガー、人の成功や幸せを許せない反社会性パーソナル障害のサイコパス、疑似恋愛にのめり込んで道を踏み外すアイドルオタク、家を出た娘を監視・干渉する毒母――妄想に取り憑かれた人びとは、自分がいかに異常なストーカーにつきまとわれているかを語り出す。その過程で起きる殺人と捜査官への襲撃事件。誰が加害者で、誰が被害者なのか。ドロドロに絡み合うストーキングの連鎖の全貌は……!?

 憎悪、嫉妬、不安、狂気、そして愛。さまざまな理由から、人はストーカーと化す。この物語では、そんなストーカーやその被害者の心理がそれぞれのモノローグ、供述調書といった形で綴られていくが、ここにトリッキーな仕掛けがある。自らのストーカー被害について切々と語る人物の言葉の端々にふと現れる歪んだ人間性。「何か、変だ」と違和感を覚えつつ読み進めていくと、被害者であるはずの人物の異常性が浮き彫りになり、ある事件の被害者が別の事件の加害者になるなど、物語は二転三転して先が見えなくなっていく。この物語に登場する人物はすべてどこか奇妙で不穏なところがあり、誰もが“信頼できない語り手”なのだ。

 読者は全体像が見えないまま、それぞれの言葉に翻弄され、ストーキング、詐欺、恐喝、リベンジポルノ、不法侵入、誘拐、盗撮、盗聴といった人間の妄執と悪意に満ちた世界に迷い込んでいく。そこには誰ひとりとして“まともな人間”はいない。その言葉に感じる不気味さが、まさに本書の醍醐味だ。しかし、その不気味さは自分のなかに「絶対にない」と言い切れるだろうか? ページをめくりながら、ふと自分自身を振り返ったとき、本書の“イヤな感じ”は一気に高まっていく。“イヤミスの女王”と呼ばれる真梨幸子の面目躍如というべき暗黒ミステリーの快作だ。

文=橋富雅彦