若手社員の退職理由のホンネは何? 職場にリテンション・マネジメントが必要な理由

ビジネス

公開日:2018/8/14

『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(山本 寛/日本経済新聞出版社)

 今や転職は特別なことではなく普通のことになった。労働者としては歓迎すべきことであるが、企業側にしてみれば少子高齢化もあり、恒常的な採用難、人手不足に陥っている。採用が困難なら、今いる社員に長く働き続けてもらうこと、リテンション(定着・引き留め)を促進していかねばならず、「リテンション・マネジメント」が必要だ。

 本書『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(山本 寛/日本経済新聞出版社)は、転職した人、思いとどまった人、企業の人事・採用担当者などの生の声とともに、企業からの視点も取り入れ、社員に長くいてもらうための対策について考えたものだ。

 なぜ辞めるのか。若年層(15〜34歳)を対象とした厚生労働省の調査によると、離職の理由は、労働時間・休日・休暇の条件、人間関係、仕事が自分に合わない、の順となっている。転職サービス「DODAの調査(2017)」では、ほかにやりたい仕事がある、会社の将来性が不安、給与に不満、という結果だ。

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「今の子には『自分の好きにできないと辞めちゃう』という傾向がありますね。“これ”という特定のものではなくて、“したい”という思いがかなえられないことで疎外感を持ったり迫害を受けているんではないかと考えてしまう」という経営者へのインタビューが本書に掲載されている。単純に「やりたいことができない」が退職理由ではなく、「やりたいことができないことによる挫折感」も理由になっているのではないかという、興味深い意見だ。

 とはいえ、これらの結果は、はたして転職者の本音だろうか。20代の転職活動経験者を対象にした「プレシャスパートナーズの調査(2017)」によると、「転職をしたホンネの理由」の最多は「労働時間・環境が不満だった」、続いて「人間関係がうまくいかなかった」、「給与などの待遇が悪かった」の順。すべてがネガティブ理由であるとともに、他の調査と比べても「労働時間・環境への不満」の比率が高く、労働条件への不満が前面に出ている。

「やりたいことができない」、「労働条件が不満」、「会社の将来に不安がある」…しかし、実際はこれらの理由のどれか1つによって辞職を決意することは珍しく、理由が重なり合って「やめよう」という決断を下すことが多いものだ。

「退職者が会社を辞める理由は1つではない」ということは、リテンションを考えるにあたって重要なポイントだ。「今の仕事内容に不満がある。もう少し給料がよければ我慢もできるが、この給料では…」「この業界の未来は暗そうだ。残業も多くてつらい。せめて目の前の仕事がおもしろければ…」など、会社に対するいくつかの不満を抱え、その葛藤のなかで退職という決断を下す。

 本書には、転職者への転職理由、転職後の状況についての詳細なインタビューも掲載されているので、そちらも参考にしてもらいたい。

 ここで、リテンション・マネジメントのポイントのひとつを紹介しよう。

 それは、「採用」における「現実的職務予告」だ。これは、採用前の志願者に対してその組織に採用された後、どのように働くかについて明確に伝えることを言う。もちろん、ネガティブな面も含めてすべて伝えることが重要だ。

 あるシロアリ駆除会社では、大卒者を採用し始めたばかりの頃の会社案内では、「エコロジー」「住環境改善」などが強調され、「数十センチの高さしかない床下に入り、シロアリを駆除するなどのきつい仕事を経験してもらう」ことは記載していなかった。その結果、入社1年以内の社員の半分近くが辞めてしまっていた。そこで、入社する前の応募者に実際の業務の様子を動画で見せるなど、「現実的職務予告」に重点を置いた採用を行ったところ、退職者が減るだけでなく業績も向上した。

 1人数百万にものぼるコストをかけて採用することを考えれば、応募者が減ることよりも辞める人を減らしていくことの方が重要なのは明らかである。

 この他、リテンション・マネジメントのポイントとして、評価の仕方や方針、キャリア形成支援、組織や職場でのコミュニケーション促進施策など、12のポイントがあげられている。

 本書の特徴は、転職者のインタビューを含め豊富な事例が掲載されていることにある。転職者側としてはまっとうな意見であると思うが、経営者や管理職は気づいていない点も多いだろう。人財ということばがあるように、企業は人で成り立っている。一従業員として、各会社でリテンション対策が進み、働きやすく働きがいのある会社が増えることを望む。

文=高橋輝実