ホラーを好むのは人生に絶望している人? 恐怖を感じる構造をズバリ分析

文芸・カルチャー

2018/8/14

『恐怖の構造』(平山夢明/幻冬舎)

 私は怖い話が大好きなので、夏になり怪談特集や心霊ドラマなどが増えてくると、欠かさずチェックしている。だが、基本的には「好き」なのだけれど、時々気分が乗らない時がある。「なんか、怖いから観たくない」と思う。これはおかしな話で、そもそも怪談は「怖い」のだ。いつもはそれを求めているくせに、突然「怖い」を避けたくなる。…恐怖ってそもそもなんだろう? 『恐怖の構造』(平山夢明/幻冬舎)は、ホラー作家の名手である著者が、「恐怖」のメカニズムを徹底考察した「『怖い』の理由が分かる」1冊だ。

■なぜピエロは恐ろしく見えるのか…その理由は?

 最初に言っておきたいのは、本書は「怖い理由を探る」というテーマなので、本書自体に「恐怖」はない。なので、「自分ってどうしてこんなに怖がりなんだろう?」とビクビクと思っている人も、安心して(笑)読めるのではないだろうか。

 もちろん、ホラー大好きな読者には強力にオススメできる。小難しい学説や理論ではなく、小説家の著者が「『恐怖書きのプロ』として持論を展開」しているので、読み物としても魅力があり、腑に落ちるポイントが多いのでとても分かりやすかった。

 なぜサーカスのピエロに恐怖を感じる人がいるのか。市松人形やフランス人形は、なぜホラー映画のモチーフにされやすいのか。若者がホラーを好む理由、笑いやエロスと恐怖の関係性、恐怖に対する「性差」、映画『シャイニング』の秀逸さ、『エクソシスト』の破壊力…などなど、さまざまな視点から「恐怖の構造」が語られている。

 どれかひとつでも、興味を惹かれるトピックがあったなら、ぜひ本書を読んでみてほしい。あなたの長年の疑問が解けるかもしれない。

■恐怖の好き嫌いには、その人の人生観が関係している?

 本書ではまず「恐怖が好きな人と嫌いな人」の違いについて書かれている。著者いわく、「ホラー嫌い」は、恐怖を「ゼロをかけたような存在」だと捉えているのではないかとのこと。恐怖が日常の幸福や平穏を「ゼロ=台無し」にしてしまう、嫌悪すべきものなのだ。
 
 一方でホラー好きは、恐怖を「自然数」だと捉えている。人生にホラーをかけ算しても、ゼロにはならない。「むしろ、生きていくうえでなにかの足しになるんじゃないか」という思いが心のどこかにあるのでは…と語っている。

 また、ホラーに対して、「嫌な思いをしたな」と感じるか、「(人生の)役に立った」と思うか。その違いは、「人生がどれほど絶望的か」に関係があるのではないかとも、著者は考えているそうだ。

 恐怖体験があまり好きではない人は、悩みを健全な形で前向きに解決できるタイプ。潜在的に自分の人生を肯定しており、その日常にヒビを入れかねない「恐怖」を不安視しているのだ。…思えば私も「ホラーを観たくない」時は、精神的に「安定している」気がする。逆に、自暴自棄に陥っていたり、酷くストレスが溜まっていたりする時こそ、恐怖を求める傾向があるように思う。

 さて、あなたはホラーが好きだろうか。嫌いだろうか。その理由は、もしかしたらあなたの人生観にも関わってくる、大きな「気づき」になるかもしれない。つまり、恐怖の構造を知ることは、ただ「そっか~」という感想で終わるだけではなく、大きな「自分発見」に繋がるかもしれないのだ。そういう意味でも、本書は非常に興味深い。

文=雨野裾