青春小説を読んでいたつもりだったのに…!? エピローグにガツンとやられる電撃小説大賞《大賞》受賞作

文芸・カルチャー

2018/9/3

『この空の上で、いつまでも君を待っている(メディアワークス文庫)』(こがらし輪音/KADOKAWA)

「将来の夢なんてバカらしい」
「人生って、つまんない」
「私以外は全員バカ」

 学生時代、そんな思いを少しでも抱いたことはないだろうか。子どもの頃は「野球選手になりたい」「ケーキ屋さんになりたい」と無邪気な夢を抱いていたが、成長するにつれてそう甘くはないとわかり、妥協点を探るようになっていく。高校生にもなれば、厳しい現実に直面し、「自分は特別な存在にはなれない」と気づくのではないだろうか。

 第24回電撃小説大賞《大賞》受賞作『この空の上で、いつまでも君を待っている(メディアワークス文庫)』(こがらし輪音/KADOKAWA)の主人公・市塚美鈴は、まさにそんな過渡期にある少女だ。成績優秀、運動神経そこそこ、見た目だって悪くない。だが夢なんてとうに忘れ、現実と折り合いをつけて世の中を冷めた視線で眺めている。

 そんな彼女を変えたのが、同級生の東屋智弘だった。雑木林でひとりガラクタを集める彼の夢は、「ロケットを作り、子どもの頃に出会った宇宙人に再会すること」。一介の高校生が、宇宙まで飛ぶロケットなんて作れるはずがない。しかも「宇宙人に会うため」だなんて、子どもだって考えないだろう。美鈴は東屋の夢を鼻で笑うが、当の本人はいたって真面目だ。「初めて宇宙に行った人は、死んででも見たい何かがあったんじゃないか」「身の程だけ知って満足する人より、身の丈以上のことを知ろうと頑張る人の方が、僕はずっと素敵だと思う」と言い、目を輝かせながら晴れの日も雨の日もロケットづくりに励んでいる。

 最初は呆れながら東屋の行動を眺め、「いい加減に現実を見て、こんな無駄な努力はやめたら?」と言い放っていた美鈴。しかしなぜか彼のことが気になり、つい雑木林へと足を運んでしまう。そしていつしか、何者になりたいかさえ決められない自分、今ある問題を未来へ丸投げしている自分に気づく。

「人生がつまんないっていうか、自分が人生をつまんなくしてるんじゃないの?」

 そう気づいた時、今の自分ができることに必死に取り組んでいる東屋が、やけにまぶしく見え始める。美鈴の成長を応援したくなるとともに、あれこれ文句を言いながらも東屋に惹かれていく彼女の姿を微笑ましく見守ってしまう。

 だが、ロケット製造はそう簡単に進まない。あるトラブルが発生したうえ、東屋がなぜこうまで懸命にロケットづくりに勤しむのか、その秘密も明かされて……。とここまで聞くとよくある青春ストーリーのようだが、この小説の場合、そこから白井健三選手ばりの超絶ひねりが加えられ、衝撃的な展開を迎えることになる。ネタバレになるので詳しくは言えないが、「あれ? 私が読んでたの青春小説じゃありませんでしたっけ?」と表紙を二度見してしまうような劇的なエピローグが待っている。最後まで読めば、タイトルに込められた意味にも気づくはず。間髪入れずにもう一度冒頭から読み、改めて感動を味わい直してしまった。胸にじんわり広がる温かさを、ぜひ味わってほしい。

文=野本由起