アニメの脚本はこうして作られる! 脚本家の「リアル」を描いた「きらら系」注目作

アニメ

更新日:2018/9/10

『ライター×ライター (1)』(原作:深見真、作画:コト/芳文社)

 深夜アニメを愛する人々にとって『まんがタイムきらら』という雑誌名は、もはや定番であるだろう。私がその名を意識したのは2009年に放送されたテレビアニメ『けいおん!』にハマった時だが、以来、姉妹誌を含めた『まんがタイムきらら』系列の作品が次々とアニメ化され、現在では「きらら枠」として深夜アニメの常連となっている。ゆえにファンにとっては「アニメ化されそうな作品」を見出す楽しみというのもありそうだ。あくまで個人的な見解ではあるが、私としては『ライター×ライター (1)』(原作:深見真、作画:コト/芳文社)に注目してみたい。

 この作品は「ライター」の物語である。ライターにもいろいろあるが、ここでは「アニメの脚本家」を指す。主人公の橋本カエデはアニメ会社の脚本賞を受賞して、作品が劇場アニメ化されるという華々しいデビューを飾るが、作品は大コケ。以後はくすぶったまま、カフェのアルバイトをして生計を立てる日々を過ごす。そんなカエデの前に、デビュー作のプロデューサー・若本サヤカが現れる。彼女の勧めで、なぜか売れっ子脚本家の十文字ユキカの弟子として同居生活を送ることに。さらにサヤカから、ユキカとカエデのふたりにテレビシリーズの仕事依頼が来るのだが──。

 基本的には先輩脚本家のユキカが新人のカエデに対し、脚本の構成方法や業界の仕組みなどを指導しつつ、降りかかってくる難題に挑戦していくという筋立てとなる。脚本の書きかたなど一般的にあまり知られていない部分に関しては割と細かい解説が入るので、その辺の知識がなくとも十分に楽しめる作りだ。まあ脚本の書きかたなどライターによってそれぞれだろうが、その一例も紹介されているので意外と実践的な側面も。原作者の深見真氏が現役の脚本家なので、そういったリアルな知識も多く盛り込まれているのだ。

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 もちろん知識だけでなく、ストーリー面でも現実に「ありそうな」展開が目白押しである。例えば「ホンヨミ」とも呼ばれる脚本会議で原作者とカエデの関係がギクシャクしてしまったり、CGを担当している会社が倒産してしまったりと、実際によく聞くようなシチュエーションが主人公たちを襲うのだ。無論、そのトラブルをどう乗り切るのかが最大の見所ではあるのだが、実はもうひとつポイントがある。それはそのトラブルが、脚本にどう影響するかが描かれていることだ。アニメーション制作側の奮闘を描いた作品はこれまでもあったが、脚本の世界を描いたものはほとんどなかった。アニメの批判にありがちな「ヒドイ脚本」がどのように発生するのか、その一端が垣間見えるのは非常に価値があるし、今後そのテの脚本に出くわしたとき「何か事情があったのかも」と、多少なりとも同情的な感覚が生まれるかもしれない。

 2018年8月現在「きらら系アニメ」は『はるかなレシーブ』が放送中で、来期には『アニマエール』が控えている。まあアニメ化には原作人気の他にも話のストックなどクリアすべき事案が多くあるのだが、コンスタントに作品を送り出せることは賞賛すべきだろう。「きらら系アニメ」のファンであるなら、雑誌の連載作品から「これは!」と思うタイトルを見つけて、アニメ化を心待ちにするのも正しい在りかたに違いない。

文=木谷誠