ブームが去ったチワワの暗く悲しい未来とは? 悲痛な動物の叫びが込められた「社会派動物マンガ」
更新日:2018/9/25

5万5998匹。この数字がなにを示しているのかすぐに分かる人は、それほど多くはないだろう。これは環境省が発表した「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」から分かる、平成28年度の犬猫の殺処分数だ。
日本は先進国であるといわれているが、動物愛護の観点から見ると後進国である。動物愛護法は制定されているが、本当に動物の体と心を守れているとは言いがたい。現に、動物を虐待しても罰せられることが少なく、署名活動などによって実刑を与えられることになっても、軽い刑で終わってしまうことがほとんどだ。
そんな日本のペットたちの現状を描いた『しっぽの声』(夏 緑:原作、ちくやまきよし:作画、杉本 彩:協力/小学館)では、繁殖業者や生態展示販売、引き取り屋、殺処分といった問題が浮き彫りにされている。
女優業と並行し、公益財団法人動物環境・福祉協会Evaの理事長として数多くの動物たちの痛みを間近で見てきた杉本彩氏が協力をしている本作は、もはやフィクションではない。温かい家族と共に暮らしている動物たちがいる一方で、虐待や飢えに必死で耐え、生き抜いている動物たちがこの日本には実在している。彼らを救うには、ペット業界の闇に目を向けていく必要があるのだ。
■獣医師とアニマルシェルター所長の動物愛はどこへ向かっていくのか
本作の主人公は、アニマルシェルターの所長を務める天原士狼と獣医師の獅子神太一。物語は、獅子神が多頭飼育やネグレクトの疑いがある個人ブリーダー宅を訪ねるシーンから幕開ける。
獅子神はそこで自分とは異なり、法律を無視しながらも苦しんでいる動物たちを助けようとする天原に出会う。獅子神は最初、天原の強引な救出法に苛立ちを感じていたが、彼の傍でさまざまなペット問題を見るようになり、自分が動物たちにできることを模索しはじめるようになっていく。
本作にはボロボロで痛々しい動物たちの姿が多く描かれている。どうにもならない現実が立ちふさがり、命が失われてしまうシーンもあるため、動物愛が強い人は目を背けたくなってしまうかもしれない。だが、これが今の日本のリアルな姿だ。だからこそ、動物たちが置かれている現状をひとりでも多くの人が知り、広めていくことが、動物後進国の日本には必要だ。
劣悪な環境の中にいる動物たちは、さまざまな痛みを抱えている。激しい餓えをしのぐために共食いや自分の体を食べてしまう子、安全な場所に保護されても虐待のトラウマが癒えずに心を閉ざしてしまう子も少なくない。こうした真実は、動物に関心を持っている方であれば見聞きすることもあるかもしれないが、そうでない人はなかなか知る機会がない。
日本では動物の命がブームにされることも多く、ブームによって苦しみを抱えてしまう動物もいる。その一例が一時期、CMで人気に火が付いて大ブームとなったチワワだ。ブームが過ぎ去った後、大量に繁殖させられたチワワたちに待っていたのは、暗くて悲しい未来であった。
にもかかわらず、今の日本は空前の猫ブームとなっている。ペットショップで猫を見かける機会や新たに猫カフェが誕生することも多くなってきているが、猫にチワワと同じ道を辿らせないためには、動物の命を一過性のブームにしないことが大切だ。
動物は人間の都合で扱われていい存在ではない。どの子も大切に愛されるために生まれてきている。そのことを教えてくれる本作にはきれいごとでは片づけられない、動物たちの悲痛な声が込められている。日本では毎年9月20日から9月26日は動物愛護週間だ。ぜひ期間中に読み、動物たちの声に耳を傾けてみてほしい。
文=古川諭香