「おいしいゴハンと愛しいセックス」があればいい。映画『食べる女』原作者が教える、生き方のヒント&“恋めし”レシピ

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2018/9/22


「人ってね、おいしいごはんを食べてる時といとしいセックスをしてる時が、いちばん暴力とか差別とか争いごとから遠くなるんだって」

 9月21日より公開中の映画『食べる女』は、このセリフのとおり「おいしいごはん」と「いとしいセックス」をテーマにした群像劇。年齢を重ねるにつれて恋愛から遠ざかる女、料理音痴で夫に家出された女、酒に酔っては一時的な関係を結んでしまう女、ぬるま湯な恋愛をもどかしく思う女……。どの女たちも心にひそやかな孤独を抱えながら、都会の真ん中で生きている。そんな女たちのお腹をおいしいごはんで満たしてくれるのが、小泉今日子さん演じるトン子だ。お腹が満ちれば、心も満たされる。そして恋するエネルギーもわいてくる。トン子の家にピットインしてパワーを充電し、自分の足で歩きだす女たちの姿に、背中を押される人も多いだろう。

 この『食べる女』の原作・脚本を手掛けた筒井ともみさんが、映画の世界とリンクした食エッセイ&レシピ集『いとしい人と、おいしい食卓』(講談社)を発表した。実は筒井さん、大の料理好きにして食いしんぼうなのだとか。映画に登場するおいしそうな料理も、筒井さんが考案したものだそう。本書にも、「玉子とトマトときくらげのシノワ風炒め」「牛ひき肉と春雨の煮込み」「みょうがのかき玉吸い」など劇中で描かれた料理レシピが満載。カラー写真も添えられ、ページをめくるたびにキューッと生唾がわいてくる。

 紹介されるレシピは、どれも季節を感じるシンプルなものばかり。ブラウンマッシュルームを手でちぎり、オリーブオイル、塩・こしょうをかけて好みの柑橘を絞ったサラダ、みじん切りにしたふきのとうを炒めて、酒と醤油で煮詰めた小鉢。中には、軽く水切りした豆腐をご飯にぶっかけ、醤油をたらしただけの超簡単レシピも! だが、これらがなんともおいしそうで参ってしまう。



 その味わいを引き立てているのが、筒井さんのエッセイだ。料理をそっとつまみ食いする、野蛮で食いしんぼうな指。ひとりの時でも箸置きを使う、つつましくも身ぎれいな食事。男のためにこしらえる小鍋仕立てのあたたかな湯気。幼い日の記憶、旅の思い出を交えながら、五感を刺激する文章で食べること、自分らしく日々を生きることの大切さを伝えてくれる。エッセイを読んでからレシピを眺めると、野菜についた土を手で払い、手際よく鍋に入れ、指先にとった塩をパラリとふる筒井さんの所作が目に浮かぶからだろうか、どの料理もどこか色気を帯びているように感じられる。

 手の込んだ料理でなくても、食材をいとおしみ、その滋味を引き出せば日々の料理は味わい深くなる。そして、おいしいごはんを食べれば、人は優しく、幸せになれる。映画『食べる女』、そしてこの本を通じて、筒井さんは私たちにそんなメッセージを手渡ししてくれる。恋の甘みも人生の苦みも味わってきた、そのとびきりセクシーな手で。

文=野本由起