町田康が描く“面白すぎる”源義経が帰ってきた! 抱腹絶倒の一代記、第二弾

文芸・カルチャー

2018/10/9

『ギケイキ2 奈落への飛翔』(町田康/河出書房新社)

〈当時、なにか詩を貰ったら必ず詩を返さなければならず、これをしないというのは非常に失礼というか、既読スルーの七百倍くらい鬼畜なことであった〉

 何のことかというと、これは平安の世の礼儀であった返歌のことである。語り手は源義経。町田康著『ギケイキ2 奈落への飛翔』(河出書房新社)は、かの義経の魂が900年の時を経て、われわれ現代人にその一代記を語ってくれるというスタイルの小説。実在する軍記物語『義経記』をベースに、“町田節”ともいうべきリズミカルかつグルーヴ感に満ち満ちた文体が、実に奇想天外な世界を作り上げた。

 第1巻である『ギケイキ1 千年の流転』では、源義朝と常盤御前との間に生まれた義経の幼い頃の逃亡の日々、鞍馬寺での修行の日々、武蔵坊弁慶との出会い、武将としての活躍等々が語られ、第2巻では挙兵した兄・源頼朝のもとへと駆け付けるシーンから始まる。

 苦労の末、感動の再会を果たした兄・頼朝と弟・義経。しかし、やはり弟を脅威に感じる頼朝は、刺客として土佐坊正尊を義経の屋敷に送り込む。その時義経はどうしていたかというと、なんと屋敷で泥酔中。普段は側に仕えている有能武士たちを皆家に帰してしまい、義経の屋敷にいるのは義経、側女の静御前、小間使いと下男のみ。手薄状態の屋敷に、絶好のチャンスとばかりに攻め入る正尊の軍だったが……。

『ギケイキ』で語られる義経という人物は、とにかく圧倒的なカリスマ性を持つ。空中を高速移動する早業の人であり、戦のときは天候さえ自在に操る。美意識が極度に発達した美男子なので、世話係すらも美少年・美少女ばかりになる。そんなカリスマ武将が、〈ああ、説明、疲れる〉とぼやきながらも、当時の戦の礼儀作法とか、おしゃれな鎧兜についてとか、「院宣」と「令旨」の違いとか、読者に向かってしっかり解説してくれるところがミソ。〈……けれども田舎者はそういう細かい差がわかんないから、令旨ってだけでありがたがって、へへえっ、てなる。今で言うと、どんな中古のボロでも、ルイ・ヴィトン様っっっっっ、メルセデス・ベンツ様ああああっ、みたいな感じ〉てな調子。けれど実は、軽妙な語り口の背後に無情な戦に翻弄される人々の悲惨さを見せつける作りになっていることこそ、本作のキモなのだ。“町田節”で紡がれる戦闘シーンの臨場感は一読の価値あり。

 登場キャラクターも生き生きと描かれている。人間とは思えない怪力で敵と見れば容赦なく皆殺しにする一方、主である義経からちょっと冷たくされると〈御主君、怒ってるのかな……あたし不細工だし〉とくよくよ気に病む武蔵坊弁慶。地味な仕事ばかり押し付けられるけど大事な局面でアニメヒーロー的活躍をする片岡八郎。ヤンキー武士たちが遠目に見ただけで発狂するほど凄絶かつ蠱惑的美貌の持ち主・静御前などなど。学校の教科書に載っている古典作品も全部町田康に語り直してほしいくらいである。

『ギケイキ』は今後全4巻まで刊行予定。町田康を右腕とした義経さんの魂がどのような語りで楽しませてくれるのか、待ち遠しくてしょうがない。

文=林亮子