こじらせ高IQ女子が幸せになる方法は? 面倒だけど最高のやることリスト

エンタメ

2018/10/24

『マイ・プレシャス・リスト』(カレン・リスナー/ハーパーBOOKS)

 人とうまく関われない19歳の少女が、幸せになるためのToDoリストの課題をクリアしようと奮闘することで、変化していく――10月20日に映画版が公開される『マイ・プレシャス・リスト』(カレン・リスナー/ハーパーBOOKS)のあらすじは、ざっくり言うとこうだ。ただこの小説は、リストを軸にした数あるストーリーの中でも、主人公の「やりたくないこと」から展開しているという点で異彩を放っていて、それだけでも手に取る価値がある。

 主人公のキャリー・ピルビーは、3年飛び級してハーバード大学を卒業した秀才。大学を卒業してからは、ニューヨークの一人暮らしのアパートでほとんどの時間を過ごしている。抜群に頭がいいため子どもの頃から学校になじめず、気の合う仲間に出会えると期待した大学でも周囲とのギャップに失望。卒業後も理論と正義の盾を構えて、自分以外の人を見下して生きている。キャリーがまともに話をするのは、離れて暮らす父がカウンセリングを依頼したセラピストのペトロフだけだ。

 周りと関わろうとしない彼女の状況を良くするために、ペトロフは幸せになるために実現すべきリストを作成する。「デートする」「誰かに、その人のことを大切に思っていると伝える」「大晦日を誰かと過ごす」といった課題をクリアするため、キャリーは半ばなげやりな気分で、まるでテストの問いをこなしていくかのようにリストに向き合う。

 キャリーの1人称で綴られるこの物語で、プライドの高い彼女の語り口は常に強気。それでも、幼少期から自分を特別視せざるを得なかった彼女の悲しみが、ところどころに滲み出る。偽善者や愚か者と関わるのはまっぴらごめん、でも誰かのぬくもりがほしい彼女の本心も見え隠れして、とても切ない。

 とはいえ、引きこもりらしからぬ茶目っ気あふれる彼女のキャラクターとウィットに富んだ言い回し、そしてクセのある登場人物たちの描写が楽しい。学生時代の教授との恋、魅力的な女の子・カーラとのちょっと際どい関係性、出会い系広告で知り合った男とのデートなど、どのエピソードも刺激的だ。しかし何よりも、頭の良さゆえに自意識をこじらせにこじらせているキャリーが、出会う人物にどんな感情を抱きどう関わっていくのかが、最大の見どころ。卑屈な彼女の思考が少しずつ、少しずつ変化していくさまを生々しく描き出す筆致が、とにかく秀逸だ。

 名門大学を卒業していなくても、知能が異常に高くなくても、他人と、大きく膨らんだ自意識の間でもがく感覚は誰もが味わったことのあるものだろう。もうすっかり大人のくせに、育った環境や親や外的要因を言い訳にして前に進めないことも、多くの人が経験済みのはずだ。だからこそ、キャリーの境遇は特殊でも、その苦しみは国境も世代も超えてリアリティを持って伝わってくる。

 キャリーはまた、正しいことと正しくないことの判断を悩んだ若き日々に、私たちを連れ戻してくれる。人より早く大学に入り普通の学生生活を送れずに、20歳前にエリートのレッテルと共に社会に放り込まれた彼女は、子ども時代をちゃんと卒業できていない。たとえ人を傷つけても欲望に従うことが正しいの? 幼い頃に知っていたはずの道徳が、大人になるとわからなくなるのはなぜ? モラトリアムの混乱のさなかにいる彼女の疑問は身が固まってしまうほどシビアだが、至極まっとうだ。彼女の言葉は、大人になって忘れてしまった、でも決して目を逸らしてはいけない深刻な問題と私たちをつないでくれる。

 リストと共に歩んだ戦いのような日々を経て、彼女はほんの少ししか変わっていないかもしれない。ただ、周りのことを否定しながら、何より自分自身を愛せなかった彼女が、「自分はこのままでいい」と思えた瞬間、やっとキャリーはスタート地点に立てたのだと思う。心を武装し続けたキャリーの口をついて出た「ママ」という言葉に、思わず涙がこぼれた。

映画『マイ・プレシャス・リスト』
10月20日(土)全国ロードショー
©2016 CARRIE PILBY PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 映画版『マイ・プレシャス・リスト』は、原作のユーモアや切なさはそのままに、エピソードや人物をアレンジして、物語をよりポップに描いた作品になっている。教授を巡る映画オリジナルのエピソードや、父親にまつわる新たな出来事もスパイスとして効いていて、原作を読んだ後でも、ぎゅっと凝縮されたストーリーとしてまた楽しめる。

 英国出身の女優、ベル・パウリーが演じるキャリーがまた、たまらなく魅力的だ。高飛車で世の中をなめたような眼差しのキャリーもそれはそれでかわいいのだが、人と関わるうちに、その瞳が年齢相当の少女の輝きを帯びていくさまが愛おしい。怒ったり泣いたり叫んだりして、ねじ曲がっていた彼女の喜怒哀楽がどんどんまっすぐになっていくのを見ていると、ワクワクと心が躍る。

 キャリーはもともと、良い出来事だけでなく、マイナスな感情も幸せに生きるための栄養にできる強さを持っていたのだろう。周りのサポートや後押しがあったとしても、瞬間ごとに自分にとって正しいものを選び取り、幸せに向かっていくのは自らの力だ。「夢は叶う!」「未来は明るい!」というスーパーポジティブなメッセージは聞き飽きた私たちに、少しだけ自分や隣の人を信じてみよう――そんな些細な思いつきをじんわりと残してくれる、優しい物語だ。

文=川辺美希