「シャブ極道」として知られた元組長が激白…覚せい剤の恐怖と更正までの道のり

社会

2018/10/21

『シャブ屋の懺悔 西成密売四十年』(木佐貫真照/KADOKAWA)

 西の麻薬王といえば、木佐貫真照である。昭和21年、鹿児島に生まれた木佐貫は札付きの不良少年として荒んだ思春期を送る。そして、大阪で極道の道に足を踏み入れてからは麻薬売買によって巨万の富を得るようになった。さばいた物量は200キロ以上、前科12犯、服役は累計30年にもおよぶ。少年刑務所も加えれば、人生の約半分を獄中で過ごしてきた計算だ。

 そんな木佐貫さんは現在更正し、なんと麻薬中毒者の治療を援助する施設を立ち上げている。どうして麻薬王は人間の心を取り戻したのか。そして、麻薬中毒の恐ろしさとはどこにあるのか。最新著書『シャブ屋の懺悔 西成密売四十年』(KADOKAWA)には、彼の心の移り変わりが綴られていた。

「シャブさえあれば、中毒者なんかいくらでも作り出せる!」

 著者自ら「ぶん殴ってやりたくなる」と述べるこの言葉は、かつて自身が口にしたものだ。しかし、麻薬中毒者の実態を知っているからこその本音でもあるのだろう。覚せい剤のように中毒性の高い麻薬は、一度でも経験してしまうと終わりだという。後は、身を滅ぼすまで売人からクスリを買い続けるだけの地獄が待っている。

 本書では、著者がこれまで出会ってきた麻薬中毒者たちのエピソードが紹介される。ある男は、長年連れ添った妻が近所の売人によって中毒者にされてしまった。そして、妻は売人と不倫をするようになる。2人の仲に勘付いた男は、ある日、逢瀬の現場に踏み込んで激情のあまり2人を殺めてしまう。ただ、悲劇の連鎖はそれだけでは終わらなかった―

 作家として活躍し始めた頃、木佐貫さんは知人を通してファンだという女性と知り合う。彼女は、かつて夫だったヤクザによって麻薬中毒にされた経験があった。一度逮捕され、出所しても夫婦で暮らしている限りクスリと手は切れない。夫とクスリから決別するため、彼女は警察に自首した。しかし、懲役を終えて、長年クスリから離れた生活をしていても「また打ちたい」という衝動は消えない。麻薬中毒とは克服できるような症状ではないのだ。彼女の苦しみと後悔は想像を絶する。

 そして、木佐貫さん自身も彼らと同じく、クスリによって大切なものを失った。平成17年、覚せい剤を常用していた頃に木佐貫は愛人を乗せ、車を走らせていた。しかし、うっかり睡眠導入剤を飲んでいたために事故を起こし、助手席の愛人を死なせてしまう。それでも、木佐貫さんは心の底から反省できず、病院を抜け出してしばらく逃亡生活を送っていたという。

 木佐貫さんが改心しようと思った出来事は、服役中に起きた。夢枕に、死んだ愛人が立つようになったのだ。

私は自分の生き方が間違っている、と思ったことがなかった。歩んできた道を後悔したこともなかった。だが、この時から反省はする……と心に決めた。

 そして、木佐貫さんは「日本達磨塾」を始動させる。薬物の依存症に苦しむ人をサポートしたり、全国で講演活動を行なったりするのが、今の木佐貫さんの仕事だ。昔の仲間とは完全に縁を切った。果たして、悪は善に生まれ変わることができるのだろうか? 達磨塾では依存症患者だけでなく、木佐貫さん自身も試されているといえるだろう。

 全編を通じて圧倒されるのは、木佐貫さんの筆が紡ぎ出す「名調子」である。過去のエピソードを、まるで弁士のように伝える語り口は、「取材者」の立場では難しい。当事者であるからこそ詳細を生々しく、克明に描き出せるのだろう。何より、尋常ではない人生経験を持つ男特有のバイタリティーが文章からみなぎっている。木佐貫さんが悪事を積み重ね、数え切れない人々の人生を奪ってきた事実は消えない。しかし、それだけのパワーをプラスの方向に転換できるとしたら…。本書は「更正」が、社会にもたらす好影響について考えさせてくれる。

文=石塚就一