美智子さまもご愛蔵と話題の 『ジーヴズの事件簿』ってどんな本?

文芸・カルチャー

2018/12/6

『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻(文春文庫)』(P.G.ウッドハウス:著、岩永正勝・小山太一:編訳/文藝春秋)

 2018年10月、お誕生日を迎えられた皇后陛下が、「公務を離れたら、本を読むのを楽しみにしている」旨を述べられた。そこで挙げられたタイトルが注目を浴び、続々重版されている。イギリスの人気作家にしてユーモア小説の巨匠、P.G.ウッドハウスによる「ジーヴズ」シリーズだ。

「ジーヴズ」は、本シリーズに登場する執事の名前。シリーズのエッセンスが楽しめる入門編的傑作選『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻(文春文庫)』(P.G.ウッドハウス:著、岩永正勝・小山太一:編訳/文藝春秋)によると、語り部である“僕”──貴族の青年、バーティ・ウースターは、ジーヴズについてこんなふうに語っている。

 で、ジーヴズのことなんだが──うちの従僕のジーヴズさ──僕らの関係を、どう言ったもんだろう? 僕がやつに頼りすぎだと思っている人間は多い。それどころかアガサ叔母なんぞは、ジーヴズのことを僕の飼い主とまで言った。でも、僕に言わせれば「それで何が悪い?」さ。あの男は天才だ。首から上の働きにかけては、誰一人かなうものはない。

 舞台は20世紀初頭のロンドン。気立てはいいがおつむがゆるく、服装のセンスも微妙にマズいバーティのもとには、次々と面倒ごとが舞い込んでくる。

 ジーヴズが彼の屋敷に到着した日も、バーティは、ちょっとばかり堅苦しい婚約者たっての頼みで、叔父が書いた回顧録の原稿を盗み出さなくてはならなくなった。

 叔父は回顧録の出版を熱望しているし、バーティは財政を叔父に頼っている。ところが婚約者は、自堕落で破廉恥な回顧録が出版されてしまったら、バーティとは結婚しないと言い出した。さて、どうする? 苦悩の末にバーティは行動を起こすが、主人の服装に関してはいささか差し出がましい口をきくジーヴズの明晰な頭脳は、それをはるかに上回る解決策を弾き出していた(「ジーヴズの初仕事」)。

 バーティに降りかかる災難は、これだけでは終わらない。親友のビンゴはいつだって恋の渦中にいるし、叔母は逃げ出したくなるような縁談ばかり持ってくる。

 続く『ジーヴズの事件簿 大胆不敵の巻』でも、バーティは、長説教の牧師を当てる賭けレースに巻き込まれ、双子の従弟に静かな生活をかき乱され、長広舌を振るう大臣閣下のご機嫌をとるはめになる。

 だが、心配する必要はまったくない。なんといってもバーティには、有能で機敏な(そして若干の腹黒さが見え隠れする)、執事のジーヴズがついているのだ。彼のおかげで、巻き起こる騒動は毎度鮮やかに収拾する。バーティは安らぎを取り戻し、従僕への信頼を深めることになる。

「ジーヴズ」僕は言った。「あのスパッツだが」
「は」
「そんなに嫌か?」
「はなはだ嫌でございます」
「時間がたてば、見方が変わるとは思わんか?」
「けっして」
「よし、分かった。もう何も言うな。燃やしてよろしい」
「まことにありがとうございます。すでにそういたしました(後略)」(「クロードとユースタスの出航遅延」)

 エリザベス皇太后や、“ミステリーの女王”アガサ・クリスティが愛読したことでも知られるジーヴズ・シリーズ。まずは、気軽に読める傑作選を手に取ってみてほしい。世界中で愛される、ジーヴズ&ウースターの魅力がわかるだろう。

文=三田ゆき