『何者』の朝井リョウが描く“世にも奇妙な物語”——最後のどんでん返しを刮目せよ!

文芸・カルチャー

更新日:2018/12/25

『世にも奇妙な君物語』(朝井リョウ/講談社)

 誰もが知る国民的番組『世にも奇妙な物語』は、最後にゾクッとするオチが付くホラーやミステリーが多く、どちらかといえば“非現実的な”物語である。だから、朝井リョウが『世にも奇妙な物語』を書くと聞いたときには、正直あまりピンとこなかった。彼の描く作品は、今を生きる若者たちの感覚をリアルに切り取る――とても“現実的な”物語だからだ。

 だが、本作『世にも奇妙な君物語(講談社文庫)』(朝井リョウ/講談社)を読み始めると、すぐにそれが杞憂だったのだと気が付く。収録されている5作品で展開される物語は、たしかに普通ではありえない“非現実的な”ものだ。ところが、その題材は、シェアハウス、コミュニケーション能力、ネットニュース…など、あまりも私たちの近くにある“現実”なのである。著者は、“世にも奇妙な物語”というありえない世界のフォーマットを借りて、現実を現実以上に私たちに突き付けてくる。

■住人たちは何を“シェア”しているのか…? とあるシェアハウスに隠された謎

 第1話「シェアハウさない」は、収録作のうち、いちばんミステリー的な衝撃が強く、そのアイディアに驚かされた。主人公は、フリーライターの浩子。彼女は、初めて雑誌で特集企画が通った喜びからお酒を飲み過ぎ、居酒屋で倒れてしまっていた。そこを店にいた40代の女性・真須美に助けられ、彼女“たち”が住む家に招かれることになる。

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 その家は、いわゆる“シェアハウス”で、真須美の他にも年齢・性別の違う3人の男女が住んでいた。ちょうどシェアハウスの特集を準備していた浩子は、これ幸いと彼らの生活を観察し始めるのだが、徐々に彼らに対して“違和感”を覚え始める…。いくら考えても、彼らがシェアハウスをする理由がわからないのだ。お金のない学生でもなく、出会いを求める若い男女でもない。しかも、どうやら“お酒”を避けているように感じる…。一体、彼らは何を“シェア”しているのか?

■「それでは、あなたのコミュニケーション能力を示すものをご提示ください」

 第2話「リア充裁判」は、朝井リョウが“コミュニケーション能力”に関する皮肉をふんだんに詰め込んだ作品だ。舞台は20XX年、コミュニケーション能力促進法が成立し、就労前の市民がきちんとその能力を獲得しているかを問う「能力調査会」が行われるようになった世界。

 通称“リア充裁判”と呼ばれるその調査会のために、学生たちは、SNSで必死に“リア充アピール”を行い、大人たちに自分の“まともさ”を示さなくてはならない。当然、この構図は、(特に就活などにおいて)“まともさ”を求める社会と、それに踊らされる学生たちを皮肉的に描いているのだが、話はそれだけでは終わらない…。なにせこれは、『世にも奇妙な物語』で、その著者は朝井リョウなのだ。すべてを破壊するラストに括目してほしい。

 思い返してみれば、著者はこれまでの作品でも、物語の主題を鮮烈に読者に焼き付けるために、ホラーやミステリーの技法を用いてきた。感情移入していた主人公がいきなり窮地に陥る恐怖感や、積み重ねてきた“違和感”を回収し想定外の事実が読者を襲う衝撃…。

 あくまで本筋を引き立てるための“脇役”であったらそれらを、朝井リョウは、本作で堂々と“主役”に据えた――。そう考えると、『世にも奇妙な君物語』は、まぎれもなく朝井リョウの真骨頂なのである。

文=中川 凌