80~90年代を揺るがしたあの芸能スキャンダル…スクープを連発し続けた記者が語る真相

エンタメ

公開日:2018/12/31

『スキャンダル:墓場まで持っていかない話』(高部 務/小学館)

 いつの時代も芸能人にまつわるスキャンダルは、世間の強い関心を集めてきた。一方で、不倫や不祥事などを大々的に騒ぎ立てるメディアには、悪い印象を抱いている人も多いだろう。実際、利益のために他人のプライベートを面白おかしく書きたてる報道があるのは事実だ。しかし、中には芸能事務者や本人との関係性があったからこそ、世に出たスキャンダルもある。

『スキャンダル:墓場まで持っていかない話』(高部 務/小学館)は、いわゆる「トップ屋」として芸能スキャンダルを追いかけてきた著者による回顧録である。本書には、80~90年代を代表するスキャンダルの裏側が収められている。そこから見えてくるのは、同じスキャンダルに携わった人間たちの感情や思惑が交錯する複雑なドラマだった。

 たとえば、1980年の山口百恵引退だ。人気絶頂のアイドル歌手が堂々と交際宣言をし、結婚と同時に芸能界を引退してしまう前代未聞の事態に、日本中から惜しむ声が寄せられた。その結果、引退後も百恵さんと三浦友和の夫妻は執拗な報道陣の追跡に苦しむこととなる。記者たちの執念を当事者として振り返りつつ、それでも百恵さんの人柄に惹かれていく著者の心理は奇妙に矛盾している。マスコミすら虜にしてしまった山口百恵という大スターのカリスマ性が理解できるエピソードだ。

advertisement

 俳優・沖雅也が1983年に投身自殺したスキャンダルでは、著者はかなりの核心まで近づいていく。沖雅也の事務所の社長だった日景忠男と著者は、旧知の仲だったからだ。久しぶりに再会した著者に、日景氏はほかの記者では考えられないような特別扱いをしてくれる。そして、日景氏自身の口から沖さんがたどった波瀾万丈の人生を聞かされるのだった。そして、自殺にいたるまでの心の闇がどのように形成されていったかについても克明に取材されていく。

 著者の人脈は、ほかの大スクープをものにするためにも利用された。1998年、芸能事務所マコロンの倒産後、中澤晨伍社長が失踪したとき、彼から著者は連絡を受けるのである。マコロンは大西結花をはじめとする人気タレントを抱えた事務所だった。しかし、度重なる借金を返せなくなった中澤氏は、取り立てから逃れるために身を隠すしかなくなった。そんな「逃亡者」から連絡が入るほど、著者に人望があったことがうかがえる。芸能界とマスコミは敵同士ではなく、本来は共存関係にあったはずなのだ。

 本書中、もっとも涙を誘うのは最終章、「堀江しのぶ 死化粧」である。巨乳美女を次々に輩出してきた芸能事務所、イエローキャブで真っ先にブレイクした堀江しのぶ。しかし、彼女は1988年、23歳の若さでこの世を去った。スキルス性胃がんだった。野田義治氏(元イエローキャブの代表取締役社長)がいかに堀江を手塩にかけて育てていたか、そして、堀江がどれだけ魅力的な女性だったかを著者は振り返っていく。著者は堀江の死期が近づいていることを知ってからも、体調不良の原因を「過度のダイエットの副作用」と報道した。その陰には、野田氏からの強い要望があった。

書くのも自由だろうが、懸命に生きているあの子に生きることへの希望を捨てさせたくないんだ。

 本書を読むと、一大スキャンダルとして扱われていた報道の数々が、真実の表層でしかなかったとわかるだろう。そして、報道にいたるまでには芸能事務所と記者の間で信頼関係を結ぶ必要があった。21世紀に入り、芸能スキャンダルは単なる「のぞき行為」と大差がなくなってきている。SNS上のやりとりを流出させたり、ネットの情報を鵜呑みにしたりするだけの報道には美学がない。「弱きを助け強きを倒す」と呼ばれたトップ屋の信念を本書から読み取ってほしい。

文=石塚就一