「このミス」はじめ2018年ランキングで4冠達成した話題作『カササギ殺人事件』のココが凄い!!

文芸・カルチャー

2019/1/9

『カササギ殺人事件(上・下)』(アンソニー・ホロヴィッツ:著、山田 蘭:訳/東京創元社)

 これほどまでに“あらすじ”を誰かに語りたくなるミステリー小説はなかなかない。『カササギ殺人事件(上・下)』(アンソニー・ホロヴィッツ:著、山田 蘭:訳/東京創元社)は、その趣向のおもしろさがミステリーファンの心をがっちりと掴み、『このミステリーがすごい! 2019年版』他、主要ミステリーランキングの海外部門で4冠を達成した。すなわち、筆者が改めて薦めるまでもなく、本作の質は保証されているのだ。

 だが、「海外作品の翻訳ものだし、上下巻でなんか分厚いし…」とそれでもまだ尻込みしている人もいるかもしれない。本稿では、そんな人たちの背中を押すために、若干ネタバレ気味になるのを覚悟でその魅力を語ろうと思う。

 物語は、イギリスの小さな出版社に勤める女性編集者が、人気ミステリー作家の新作「カササギ殺人事件」のゲラ原稿を読み始めるところから始まる。

『カササギ殺人事件』は、まさにわたしの人生のすべてを変えてしまった。

 彼女のこんな独白の後、なんと上巻は贅沢にも1冊すべて作中作である「カササギ殺人事件」を綴ることに費やされる。読者は、アガサ・クリスティを髣髴とさせる上質なミステリーの雰囲気に惹かれてゆき、作中作であることを忘れて読みふける…のだが、その小説には“ある重大な謎”が残されたままだった。下巻では、そのオチに憤慨した編集者がその謎を追うべく動き出すのだが、同時にイギリスの出版業界でも大事件が起こる。「カササギ殺人事件」の作者アラン・コンウェイが亡くなったのだ…。

 ミステリー小説で一見関係ないふたつの事件が起きたとき、それがラストで絶妙に絡み合うのは“お約束”だといっていい。とはいえ、『カササギ殺人事件』において、それは作中作である小説=“虚構”と、その小説を取り巻くイギリスの出版業界=“現実”だ。虚構の世界で何が起きようと、現実の世界がそのまま動くわけではない。だが、決して交わらないように思えたふたつの事件は、本書の終盤――思わぬ形で完璧に符合する。そのページを読んだ瞬間、あなたはミステリーを読む快感をまざまざと思い出すだろう。

文=中川 凌