急速拡大する下層階級のアリ地獄「アンダークラス」。困窮生活の実態と原因は?

社会

2019/1/21

『アンダークラス ──新たな下層階級の出現』(橋本健二/筑摩書房)

 日本社会の片隅にポッカリと大きな口を開けて、転がり込む者たちを待ち受ける“見えざるアリ地獄”があるのをご存じだろうか。ひとたびそこに転落してしまうと、容易には抜け出せなくなるという。それが「アンダークラス」と呼ばれる社会階級だ。

『アンダークラス ──新たな下層階級の出現』(筑摩書房)で著者の早稲田大学教授・橋本健二氏は、さまざまな統計データを基に、「アンダークラス」と呼ばれる階層の実態や窮状を浮き彫りにする。では、アンダークラスとはどのような人々で、どれほどの数がいて、年収はどれくらい得ているのか。著者がデータから導いた、その結果からまずはお伝えしよう。

■該当する数はおよそ930万人! さらに拡大する「アンダークラス」

 本書によればアンダークラスとは、「非正規労働者」全体から、家計補助的に働くパート主婦、非常勤役員や管理職、資格や技能を持った専門職者を除いた、残りの人々のことである。

 その人口は「およそ930万人」で、就業人口全体の15%ほどを占め、しかも急速に拡大しつつあるという。性別や年齢別にみると、下記のようになる。

・男女比:男性526.6万人(56.7%)/女性402.1万人(43.3%)
・年齢層:20歳代15.3%/30~50歳代それぞれ12%前後/60歳代37.6%/70歳代10.9%

 アンダークラスの収入は、平均年収186万円で、貧困率は38.7%と高い。特に女性のアンダークラスに注目すると、貧困率は5割に達しているという。

 貧困と隣り合わせの生活をしていると、結婚して家族を形成することもむずかしくなる。男性だと3分の2程度にあたる66.4%が未婚者で、女性でも未婚者が過半数を占めるが、さらにその43.9%が離死別経験者だという。

 本書の説明するアンダークラスのモデルケースは以下の通りだ。

 学歴は高卒以下で、家庭の貧困や家族関係に問題があったことなど、暗い子ども時代を送った人が多い。いじめにあった経験をもつ人は3割を超え、不登校経験者も1割に達する。学校の中退経験者も多く、約3分の1は卒業から就職までに空白期が存在する。健康にも問題を抱えており、心の病気を経験した人は2割にのぼる。

 以上が主だったアンダークラスのアウトラインである。本書ではさらに男女・世代別に、それぞれの実態や窮状などが詳細に分析されているので、この現状を知るためにもぜひ本書をご一読いただきたい。

■貧困の危機に瀕した失業者・無業者はさらに「283万人」

 ちなみに、このアンダークラス930万人に、「失業者・無業者」は含まれていない。著者は、この失業者・無業者を「アンダークラスの隣人」として1章使い、その実態を、データを基にひも解いている。それによると、アンダークラスとは別の階層として、貧困の危機に瀕した失業者・無業者が「283万人」(「労働力調査」2017年)もいることになる。

 こうした失業者・無業者が、どういう経緯で現状に至ったかについて、著者は「2016年首都圏調査」というアンケート形式の質問紙調査データから8例を紹介している。それを読むと、まるで直接彼らにインタビューしたかのように当事者たちのリアルな声が聞こえてくる。

 著者はさらに、冒頭と終わりで、アンダークラスが生んだとされる殺人犯(永山則夫、加藤智大)の例をあげ、アンダークラスという階層の人たちがともすれば抱えることになる心の闇、社会への不満について言及する。

 著者は、アンダークラスは「自己責任論」だけで解決はできない問題であると、強調する。また、自分は大卒で正規雇用だからと今安心している人でも、リストラや親の介護を機にアンダークラスに転落してしまう可能性はいつ起こるかわからないという。

 つまり、いつ自分や周囲の人が、アンダークラスとなってしまうのか、その予測は難しいのだ。ひとつ確かなことは、このままこの問題を放置しておけば今後さらに増え続ける、ということだ。

 国民全員で格差社会に対する関心を高め、支え合うことはできないだろうか。まずは本書でアンダークラスの実態について、ぜひ触れてみてほしい。

文=町田光