中国で日本人に共感する「精日」が急増中!? 中国人が「ギャップ萌え」する理由とは?

社会

2019/2/18

『精日 加速度的に日本化する中国人の群像(講談社+α新書)』(古畑康雄/講談社)

 日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、2018年に日本を訪れた外国人客数は、過去最高の3119万人で、その約27%にあたる838万100人が中国からの人たちだ(同局ホームページより)。

 多数の中国の人たちが日本に来ることを、「嫌いな国のはずなのに、なぜ来たがるの?」と、不思議に思っている日本人も多いだろう。かつての反日デモの記憶や、ニュースでよく見かける中国当局スポークスマンの日本への冷ややかな発言・姿勢から、中国では当局から国民まで一貫して反日なのではないか、という先入観があるからだ。

 しかし、『精日 加速度的に日本化する中国人の群像(講談社+α新書)』(古畑康雄/講談社)を読めば、その先入観は一新されるだろう。「中国当局の反日姿勢=民意」ではないどころか、今後、日本の良き理解者として、市民レベルで日中関係を大きく改善するための架け橋となってくれそうな人たちが、現在の中国には多くいることがわかるからだ。

 それが本書に登場する、「精日」(せいにち、精神日本人の略)と呼ばれる中国の人たちだ。

●日本人の精神や社会システムにまで賛同する「精日」とは?

 本書は、中国に精通する共同通信の記者である著者が、精日が生まれた時代背景を解説し、日中両国で取材した多数の精日へのインタビューを通して、彼らにとって日本と日本人がどのような存在なのかを様々に教えてくれる。

 また、どういう人たちがなにをきっかけに精日になり、彼らの中国での立場や、彼らから見た中国の現状や政府当局はどのようなものなのか、などについても詳細に学ぶことができる内容だ。

 では、「精日」とはどういう意味なのか。本書によれば、精日は2014年ごろから、20代・30代によって使われ始めたネット用語だという。著者はこう解説する。

『精神日本人』とは、そもそもは温和、礼節、清潔、秩序、勤勉、協調、謙虚といった、日本人の優れた特性やライフスタイルを尊重し、学び、自分の生活に取り入れていこうとする中国人のことです。(本書より引用)

 つまり精日とは、ドラマやアニメ、ファッション等の日本文化愛好家(こうした中国人は「哈日:ハーリー」と呼ばれてきたという)の範疇を超え、日本人の精神や社会システムといったディープな部分までに賛同し、学ぼうとする人たちだ。

 著者が「そもそも」と記しているのは、ディープなだけに、現在の中国において精日という言葉は、当局やその管理下にある中国メディアの操作によって、まったく違う意味付けがなされていることを示している。

 結論を言えば、「精日=軍国主義日本の礼賛者、売国奴、テロ予備軍」といった批判対象とみなされてしまうのである。

●来日した中国人が実像を知り「ギャップ萌え」する?!

 著者によれば、中国当局が精日というネット用語でさえ容認できないのは、いかに「反日」という政治的イデオロギーで中国国民を洗脳しようとしているかを示す、ほんの一例だという。

 そのため、本書でインタビューに答えている精日の多くは匿名だ。彼らは、精日と公言はしないまでも、当局が国民に対して反日思想を植え付けようとしていることに対してはすでに気づいており、そうした当局を冷ややかに見ている。

 その多くは20代後半~40代の男女で、『艦これ』等のアニメきっかけの人もいればサッカーの日本代表きっかけの人たちもいる。いちばん多いのは、観光や留学、ビジネス等で、実際の日本と日本人を知ったことがきっかけになった精日たちだ。

 ある20代の精日男性は「子どもの頃は反日教育とテレビで流される反日ドラマの影響で、日本が大嫌いだった」そうだ。しかし、中学の修学旅行で日本に1週間滞在したことで、「街もきれいで、人も親切で、すぐに日本にはまってしまいました」と明かす。

 このように、実際の日本を訪れたことで、当局が教える日本社会や日本人像と実像のギャップに気づき、一転して日本が好きになる、いわばギャップ萌えする人が中国ではあとを絶たないという。

 早稲田大学に留学したこともある20代女性は、「中国人に、日本人も私たちと同じように“普通の人間”だと感じさせるのが重要だと思います」と答えている。

 いかに多くの中国国民が、「日本人=普通ではない人間」と教え込まれているかがうかがえる発言だが、ネットが使える若い世代や日本観光ができる経済的なゆとりのある層は、このように当局の洗脳を解く機会が得られる。

 一方で、低所得層や農村部等の中国の人たちは、その機会が得られないため、現在の中国人の日本人に対する印象は、善悪二極化しているのが現状だそうだ。

●日中両国が友好を深め、ウィンウィンの関係になってほしい

 また、「日本を知れば知るほど、かつての中国の文化の素晴らしさ、偉大さを実感する。唐の都、長安も戦乱が無ければ現在の京都や奈良のようだっただろう」や、「私にとって日本に行くことは、異国を理解する機会というだけでなく、日本という鏡を通して中国を理解する機会なのです」など、日本を通して母国理解や再認識を深めたいと思う精日たちもいる。

 こうした精日たちは共通して、今後の日中関係をより前向きなものにしたいと考えており、ある上海在住の精日は、著者にこんなメッセージを寄せている。

「(日中)両国が友好を深め、協力し、ウィンウィンの関係になってほしいのです。私たちは歴史に縛られたくはありません。未来を開拓しなければなりません」

 もし中国の国民に対してネガティブなイメージを持っているなら、本書はその解消に大いに役立つだろう。

 一方で「大和民族、その外面は儒者のようにうやうやしく、君子のように謙虚だが、困難に直面するたび、ますます勇敢になり、鍛え磨き、奮進し、わが道を押し通す」とまで賛美されると、自戒せずにはいられなくなるのも本書の特徴だ。

 今後ますます世界から人々が集まる日本。この国から何かを学ぼうとする人たちに対して、恥ずかしくない日本を、ぜひとも見せられるようにしていきたいものだ。

文=町田光