「死者専用の橋」「行きどまりの断橋」――マジか…!橋にまつわる怖いエピソード

暮らし

2019/3/19

『怖い橋の物語』(中野京子/河出書房新社)

 橋は実にさまざまだ。造形が美しく観光名所にもなっている有名な橋もあれば、いつ渡ったかもわからぬほど道路や川と同化した地味な橋もある。実際、徒歩で通って初めて気づいたという橋も存在する。無名の機能重視でかけられている橋であれば特に気にもならないが、ほとんど橋の役目がないような橋なのに名前がしっかりついている橋を見ると、さすがに不思議に思うことはある。そんな疑問を解決してくれたのが『怖い橋の物語』(中野京子/河出書房新社)だった。

 著者の中野京子氏は、「怖い絵」シリーズなどで知られている作家であり、ドイツ文学者だ。「怖い絵展」の監修も務めている。本書は、その中野京子氏がまとめた、世界中のさまざまな橋にまつわるエピソード集だ。

 本書を見ると、橋の名前の奥深さに気づかされる。興味深いのは、忌まわしい名前がついた橋だ。中でも気になるのは「悪魔の橋」。「魔橋」と呼ばれる橋もあるという。多いのはヨーロッパで、なんと数十カ所もあるのだそうだ。

「悪魔の橋」のいわれは、その橋を建造したのが悪魔自身である、または悪魔と契約した人間によるものとされていることあるらしい。当時の人にとっては、橋は建造がむずかしいものであり、悪魔でもなければ造れないという発想から来ているのだそうだ。しかし、こんな伝説も残っているという。

ウーリ州の人々が、橋を架けようと何度試みてもうまくゆかない。あまりの難所ゆえ人間には無理と諦め、「悪魔が造ればいい」と口に出してしまう。するとファウストの前に現れたメフィストみたいに、忽然と悪魔が立っていた。「よろしい。造ってやろう。だがこの橋を最初に渡るものの肉体と魂はいただいていくぞ」。
あれよあれよの出来事で、木橋は完成。さあ、困った。誰も一番乗りなんかしたくない。すると知恵者がいるもので、グッド・アイデアを思いつく。山羊をけしかけて橋を渡らせたのだ。悪魔はそれに飛びついたが、人間ではないと知って激怒する。

 本書でも触れているが、このエピソードから脳裏に浮かぶのは芥川龍之介の作品、『悪魔と煙草』だ。そして、同じような結末になっている。もちろん、橋の話はこの続きがあり、最後は悪魔が不利になるのだが、こうして橋の名前として至る所に残っていることは興味深い。ヨーロッパの人にとって、橋の多くは悪魔が造ったものということだろうか?

 橋のエピソードには、歴史上の人物に関連したものも多い。マリー・アントワネットが最後に渡れなかった橋などもそうだ。橋を渡りきれなかったがために、斬首刑になってしまう。橋は異なる世界をつなぐものというが、橋の向こうに渡れたか渡れなかったかで運命が変わってしまう場合もあることを考えると、なんとも不思議なものである。

 今まで、橋の名前や、「なぜ、こんな場所に橋が?」と疑問に思うことはあっても、いわれや歴史的な背景までは調べようとも思わなかった。そこで何が起こったのか、なぜ造られたのか、考えながら渡ってみるのも面白い。橋への思いが変わる一冊だ。

文=いしい