企画書や会議のない会社、「ほぼ日」が上場を果たしたワケ。魅力あるサービスが次々生まれる背景は?

ビジネス

2019/3/14

『すいません、ほぼ日の経営。』(川島蓉子、糸井重里/日経BP社)

「株式会社ほぼ日(にち)」は、なんとも不思議な会社である。同社は、糸井重里氏が1998年に創刊したウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の運営をはじめ、年間約80万冊を売り上げる「ほぼ日手帳」などの文具の販売、その他イベントなどを手掛けている。我々が外部から眺める「ほぼ日」は、自由なクリエイティビティを第一に尊重する“職人気質”な会社、というイメージだ。

 だが大方のイメージを覆して、2017年3月、「ほぼ日」は、東京証券取引所のジャスダック市場に上場した。このニュースを見た人の多くは、いったい「なぜ?」と首を傾げたのではないだろうか。「ほぼ日」という組織のスタイルと、株式市場の原理はどうにもそぐわないように思えたからだ。本書『すいません、ほぼ日の経営。』(川島蓉子、糸井重里/日経BP社)は、そんな疑問から出発した、糸井重里氏へのインタビュー本である。

■年間約80万冊のベストセラー「ほぼ日手帳」はどうやって生まれたのか?

 そもそも、「ほぼ日」とはどんな会社なのだろう。それは、「ほぼ日」売り上げの6割を占めるという「ほぼ日手帳」が生まれた経緯を見ればよくわかる。「ほぼ日」のことをよく知らない人からみると、「他の手帳とそんなに違うの?」と疑問に思うだろう。だが、「ほぼ日手帳」は、普通の手帳とは、成り立ちから根本的に違うのだ。

 本書によれば、社員のひとりが「ほぼ日読者のための生徒手帳を作ろう」と言い出したことから始まったという。つまり、単に手帳を作ろうとしたのではなく、「ほぼ日」というコミュニティがあってこそのものなのだ。「ほぼ日」では、このように誰かの「これをやりたい」という思いからプロジェクトが始まり、人を集めてそれが広がっていく。その過程で、企画書をつくることはないという。

■「ほぼ日」はなぜ上場したのか?

 本書で「ほぼ日」の内側を覗いていくと、ますます「上場」という言葉が縁遠く感じる。だが、糸井氏は想像以上に上場についてポジティブに捉えていたようだ。彼は、「上場はジムでのトレーニングに似ている」と語る。上場することで、会社としてより強くなり、やりたいことが思うようにできるようになる――。今の「ほぼ日」は、“サイズ感”の小さい会社だ。手帳を別にすれば、何万、何十万の人へと商品を届けられるような体制があるわけではないらしい。糸井氏は、小さくまとまりかけていた会社に違和感を覚え、上場して市場に揉まれることを選んだという。

 本書は、他にも多角的な視点から「株式会社ほぼ日」をくわしく解体していく。「ほぼ日」は、人事制度、働き方、社長のあり方など、何を取っても斬新で普通の会社とは違う。だから、「ほぼ日」の考え方を、そのまま自分の会社に当てはめることはむずかしいと思うかもしれない。だからこそ、凝り固まった働き方の“当たり前”に縛られている私たちに、本書は一筋の光をもたらしてくれるだろう。

文=中川凌