周りから孤立、いじめられていた内気な少年が出会ったのは――世界中で絶賛された『ダム・キーパー』が初の絵本に!

文芸・カルチャー

2019/3/29

『ダム・キーパー』(トンコハウス/KADOKAWA)

『ダム・キーパー』は、『トイ・ストーリー』などで知られるピクサーのアートディレクターだった堤大介さんとロバート・コンドウさんが自主制作し、第87回アカデミー賞の短編アニメーション部門にもノミネートされたアニメ映画。この春満を持して、映画の世界観をそのままに、すべてのページを描き下ろした絵本『ダム・キーパー』(KADOKAWA)が刊行されました。

 主人公のピッグは、町はずれのダムの向こう側にある「くらやみ」を、風車を回して押しかえすダム・キーパー。それを知らない町や学校のみんなは、ダムの仕事で汚れたピッグを「よごれんぼ」とばかにします。

 そんなピッグに声をかけてきたのが、転校生のフォックスでした。絵を描きながら、フォックスとともに楽しい時間を過ごすピッグ。ところがその直後、悲しい場面に出くわします。フォックスが自分が描いた絵をいじめっ子たちに見せながら、ピッグのことを笑っていたのです。

 思わずフォックスの絵を破りとって、走りだしたピッグ。悲しみのあまり、風車を回すことを忘れてしまいました。どんどん「くらやみ」に飲みこまれていく町。それに気づいたピッグは、風車小屋へと急ぎます。力いっぱい風車を回し、ようやく明るくなってきた町。ふとフォックスの絵を見返すと……。

悲しい出来事があっても、使命をまっとうしたピッグ

 体じゅうが汚れても、町のみんなからいじめられても、ピッグが風車を回す手を止めることはありませんでした。

 力いっぱい風車を回すときのピッグの表情は、いつもとは違いました。下を向いた自信のなさそうな様子ではなく、町を守ろうとする力強さにあふれています。ピッグはこの仕事に、誇りと使命感を持っていたのではないでしょうか。このときばかりは、町のみんなが自分を見る目も、フォックスの絵のことも忘れ、正義にあふれた行動で町を守りぬきました。

 深く傷つくようなことがあっても、前に進むことをやめてしまってはいけない。がむしゃらに進めば、「くらやみ」が晴れわたるときがやってくるかもしれない。ピッグの勇気ある行動が、そんなことを教えてくれます。

陰の存在だったピッグに、フォックスが光を当ててくれた

 物語のエンディングで、ピッグは風車小屋の中でフォックスと笑いあっています。自分がダム・キーパーであることを打ち明けられる、大切な友だちができたのです。風車小屋の中に光が差しこみ、いつも暗がりにいたピッグの顔が明るく照らされているのが印象に残りました。

 ここに描かれた絵は、かわいらしいキャラクターでありながら、まるで油絵のようなタッチで独特の深みを感じさせます。中でも特徴的なのは、美しい光と色です。夢と希望にあふれた町や教室を照らす光。その光が際立たせる鮮やかな色。同時に、光の反対側に浮かび上がるのは影です。その暗がりの中にはいつもピッグがいます。ダム・キーパーという責任ある仕事につきながらも、町のみんなから、まるでいないもののように扱われているピッグ。そこに光を当ててくれたのがフォックスでした。

 光と影の絶妙な構図によって、この世界には、相反する2つのものが常に隣り合わせに存在していることに気づかされます。私たちの身の回りでも同じことが言えるのではないでしょうか。たとえ今日が暗がりのような一日でも、明日は一筋の光が差しこむかもしれません。自分を理解してくれる誰かとの出会いが、待っているかもしれません。

 美しい絵と普遍的なストーリーは、読めば読むほど心に染みこんできます。誰かから心ない言葉をかけられたときや、自分のことを理解しようとしない人に出会ってしまったとき、もう一歩前に進む勇気がほしいとき、そばに置いて、何度も読みかえしたい絵本です。

文=吉田有希