自殺をしようとしている生徒は一体誰なのか――10代の著者が巧みな構成で描く、青春と“自殺”をめぐるミステリー

文芸・カルチャー

2019/3/28

『探偵はぼっちじゃない』(坪田侑也/KADOKAWA)

 万城目学など多くの才能を輩出してきたボイルドエッグズ新人賞。その第21回受賞作品が、本作『探偵はぼっちじゃない』(KADOKAWA)だ。

 物語の語り手となるのは、私立中学に通う3年生の緑川とその学校の新米教師の原口というふたりの人物。緑川は受験を控えていながら勉強に身が入らず、狭い人間関係の中で底抜けに明るい“陽キャラ”、物静かで無害そうな“陰キャラ”といった立ち位置を気にしてばかり。自分が陽キャラのグループにいて“ぼっち”じゃないことにかすかな優越感を得ているが、成績はかんばしくなく両親との関係もうまくいっていない。一方、原口は自身の父親が学校の理事長であるため「経営者の息子」と色眼鏡で見る同僚教師や教職を無意味だという父に反発し、彼らを見返そうと熱意をもって仕事に励んでいた。

 そんな夏のある日。ひとりで夜の街を出歩いていた緑川は星野という少年に声をかけられる。緑川には見覚えがなかったが、星野は同じ学校の生徒であり、ある用事があって緑川を探していたという。その用事とは「夏休みに一緒に小説を書いてほしい」というあまりに意外な申し出だった。同じ頃、原口は「冷めている」とあまりいい印象を持っていなかった石坂という先輩教師が、自殺志願者が集まるサイトのチャットグループに学生になりすまして参加していることを知る。さらに、その自殺グループに自校の生徒がいることに気がついて――。

 物語は緑川と星野の小説執筆、原口と石坂による自殺志願の生徒探しが交互に語られていく。緑川の語りから、思春期ならではの危うく揺れ動く心情、“夢”を見つけてまっすぐに向かおうとするときの高揚、信頼を育んでいく友達との交流が瑞々しく綴られていくと同時に、自分の未熟さを痛感しながらも誰かわからない生徒の自殺を未然に食い止めようと必死になる原口の教師としての焦燥と成長が描かれていくのだ。さらに、中盤からは緑川と星野が書く“ミステリー小説”が劇中劇のように入り込んでくる。こちらは、文化祭前日に密室状態の美術室から文化祭展示品となるはずだったモザイクアートが盗まれるというミステリー。このように本作は、中学生のひと夏の青春、自殺志願者を決行までに探し当てるサスペンス、劇中劇の密室の謎解きミステリーという3つの要素から成っている。この3つの物語がどのような形で交錯することになるのか、その鮮やかで意外な展開にはきっと多くの読者が驚かされるだろう。

 そして、もうひとつ驚かされることは、本書は2002年生まれの著者が中学3年生の夏休みの自由課題として書いた作品だということだ。リアルな思春期の痛切な心情表現は、著者の年代によるところも多いだろう。しかし、本書の魅力はそこにとどまるものではない。巧妙に練られた構成が光る青春ミステリーとして、著者の年齢と関係なく完成度の高い作品となっており、そこには新人作家として確かな才能を感じさせる。現在は現役の高校生だという著者が、今後どのような作品を書いていくのか、さらなる才能の広がりに期待したい。

文=橋富政彦