“万年筆”を知れば、毎日が、人生が変わる!? あなただけの1本を選ぶためのバイブル

文芸・カルチャー

2019/4/17

『万年筆バイブル』(伊東道風/講談社選書メチエ)

 近年、万年筆市場が盛り上がっている。子ども・学生向けの低価格万年筆が、インクのカラーバリエーションの豊富さや、万年筆独特の書きやすさなどの相乗効果で、大人世代まで取り込んで大ヒット中だという。

 万年筆といえば、筆者の想い出はやはり、原稿用紙に刻まれた文字のインクの濃淡の美しさである。筆者が某出版社の編集者だった頃、すでにデジタル入稿なのに、年配の大先生からはよく万年筆による手書き原稿を拝受した。それをすべてパソコン入力する作業は大変だったが、筆圧が生むインクの濃淡には、さも書き手の思いが投影されているかのようで、万年筆を使いこなすことの粋を感じたものだった。

■ビギナーからヘビーユーザーまでを、万年筆の奥深い世界へと誘う

 そう、万年筆はじつに奥深い筆記具なのである。その深遠さを教えてくれる1冊が、『万年筆バイブル』(伊東道風/講談社選書メチエ)だ。

 本書は、「最初の一本の選び方」から始まり、万年筆とインクの関係やケア方法、メカニズム解説、国内外の万年筆メーカーの特徴、さらに1761年を起点とした「万年筆200年史年表」などがまとめられている。

 ちなみに著者の伊東道風氏とは架空の人物であり、その実は老舗文具店伊東屋が誇る万年筆部門の、仕入れ・メンテナンス・販売など各担当者たちの混成チームなのだそうだ。

 では本書より、ビギナー向けの心得を紹介しよう。

「最初の一本を」という人に対して、本書は「1万円台のものを国産メーカーから選ぶ」、「ネット通販ではなく、必ず店頭で試し書きをして選ぶ」などとアドバイスする。

 なぜ国産メーカーかといえば、日本人の平均的な手の大きさに合わせて、日本語が書きやすいよう、開発・設計がなされているからだ。また、店頭で買うのをすすめる理由は、「試し書き必須のアイテム」だからである。

 国産メーカーに絞っても個性はさまざまで、フィット感、ペン先の硬さや字幅のバリエーションも豊富だ。そのため、書いてみて自分の筆圧や好みの字幅にマッチした万年筆を選ぶことが、失敗しないためのコツだという(ちなみに試し書きの際は、トメ・ハネ・ハライのすべてがある「永」という字を書くといいそうだ)。

■しなやかで耐久性にも優れた「金のペン先」の魅力

 ここで少しペン先についても触れておこう。というのも、筆者は以前万年筆を使ってみたものの、書く際のカリカリとした感触が好みに合わず、使わなくなってしまった経験があるからだ。

 本書によれば、硬いのは「ステンレス製ペン先」の特徴だという。力を強めに入れて書く筆圧の強い人や、書くスピードが速い人にはマッチしているという。一方で、しなやかなペン先を望む人は、「金のペン先(14K、18K、21Kがある)」を選ぶといい。金のペン先は、インク成分による酸化への耐久性にも優れているため、万年筆が丈夫で長持ちするのも大きなメリットだ。

 このように万年筆選びというのは繊細さが求められる作業なのだが、それは買う時ばかりではない。むしろ、使い始めてからが本番である。

 それらは、使う際のペン先をあてる角度や加える筆圧、ボディの構造にマッチしたインク選び、日頃のケアとメンテナンスなどなど、万年筆を末永く自分の良きパートナーとするための基礎知識と諸注意事項である。その詳細はぜひ本書でご確認いただきたい。

 要は、万年筆とは、単なる筆記具ではないのである。本書によれば、「使うほどに自分の癖がしみこみ、世界の中のたった一本になっていくという育てる愉しみ」があるのだ。そして、「“万年筆”を知れば、毎日が、人生が変わる」とも、著者は記している。

 その言葉の真意を知りたいと思った方はぜひ、本書を片手に「自分だけの一本」を探し出し、じっくりと年月と愛情をかけて、育てあげてみてはいかがだろうか。

文=町田光