待望の新築の家から、家族が忽然と消失…! あなたはこの美しい謎を解くことができるか?

文芸・カルチャー

2019/4/20

『ノースライト』(横山秀夫/新潮社)

 横山秀夫6年ぶりの新刊『ノースライト』(新潮社)が発売された。著者が本作で題材に選んだのは、建築士という職業。彼らの仕事は、クライアントの要望を予算の範囲で叶える“ビジネスマン”であると同時に、この世にひとつしかない作品を世に送りだす“芸術家”でもある。建築士…いや、“建築家”であれば、その生涯のうちに「これだ」と思える傑作を創りたいと考えるものだろう。本作は、主人公が直面する“ある謎”を起点に、建築士たちが抱える葛藤、そして家族のあり様を描き出す小説だ。

■仕事も家庭も一度は諦めてしまった主人公だが――

「すべてお任せします。青瀬さん、あなた自身が住みたい家を建ててください」

 バブル期に挫折を味わったことがある一級建築士・青瀬稔は、新しい勤め先の事務所でも熱の籠らない仕事を続けていた。建築士としての矜持を失い、ただクライアントの指示通りに無難な設計の図面を引く…。そんな日々を送る中で、とある夫妻からの依頼が彼の心に火をつけた。「あなた自身が住みたい家を建ててください」――。青瀬は、再び建築デザインに熱中するようになり、やがて完成した“Y邸”は、建築雑誌に掲載されるほどの評判になった。

 だが、その4カ月後、思わぬ事実が青瀬に突き付けられる。依頼者であった吉野夫妻が、そのY邸に住んでいないというのだ。現地に足を運び衝撃を受けた青瀬は、すぐ吉野氏に連絡を取ろうとする。だが、電話はつながらない。新しい家を目の前にあれほど喜んでいた吉野一家は、一体どこへ消えてしまったのか。

 その謎を解く鍵は、Y邸に残されたひとつの椅子にあった。青瀬は、椅子をデザインしたと思われる建築家、ブルーノ・タウトの足跡を辿りながら、吉野夫妻の思惑に迫っていく…。

■建築家が「家」の設計に込める思いとは?

 本作のメインテーマは、“家”とそこに住む“家族”だ。父親がダム建設の職人だったという青瀬は、長年自分が住んできた“我が家”という一般的なイメージを持っていない。彼が思い出すのは、いつだって、職人たちが住む飯場の北窓から入り込む光――「ノースライト」だ。青瀬が作り上げたY邸は、別れた元妻・ゆかりが望んでいた「木の家」に、彼の原風景であるノースライトを取り入れたものだ。そこには、青瀬の建築家としての情熱と、壊れてしまった家庭への思いが込められている。一度道を違ってしまった青瀬とゆかり、そして娘の日向子は、再び“家族”として向き合えるのだろうか。青瀬家と吉野家、ふたつの家族がどういう結末を迎えるのか、この物語をどうか最後まで見届けてほしい。

文=中川凌