死にがいを求めて生きているの…生きがいが見つけられずもがき悩む私たちの処方箋

文芸・カルチャー

2019/4/20

『死にがいを求めて生きているの』(朝井リョウ/中央公論新社)

「仕事に生きがいを感じる」という人は多いだろう。誰かの役に立っていると実感し、自分の価値を見出していく姿は傍から見てもとても眩しいものだ。しかし、光があるところには、その影である闇がある。生きがいを見つけられず、暗い気持ちを引きずる人々も多いはずだ。

 職場と自宅を行き来するだけの平日と、疲れて何もやる気がしない休日。代わり映えのない現実に擦り切れた心が、闇の中で「生きがい」という希望の光を求めるのかもしれない。だが、この生きがいという光は、すぐ目の前にあるかと思ったら遠くにあり、掴んだと思ったら消えてなくなってしまうような淡くて曖昧な存在だ。

 そんな掴みどころのない“生きがい”をテーマにした小説が出版された。その名も『死にがいを求めて生きているの』(朝井リョウ/中央公論新社)。若者を取り巻く空気や心の声を、鋭くかつ正直に描いてきた気鋭の作家・朝井リョウの最新作だ。

 この物語には、生きがいのない辛さ、他人に対する見栄や妬みなど、人のあらゆる感情が描かれている。他人に踏み込まれたくないような、心の中のドロッとした部分をあばいていく“朝井節”は必見だ。登場人物たちの剥き出しとなった感情は、テーマである生きがいだけでなく、価値観や人との関わりについて、改めて考えなおすきっかけとなるはずだ。

■「生きがい」という支えを見失ってしまった登場人物たちは――

 本書は、大学生活を送っていたある日、ある事故で植物状態になってしまった智也と、病院でその彼を見守る親友の雄介の2人が主人公。そんな2人に関係する人物たちが中心となり、物語が紡がれていく。それぞれの人物の、生きがいに対する葛藤が描かれつつ、智也と雄介の間にある隠された秘密も明らかになっていく。

 登場するのは、同じ毎日の繰り返しに生きがいを見出せずに悩む、智也が入院する病院の看護師。デモ活動で注目を浴びることに生きがいを感じていたが、あることがきっかけで自分の生きがいに疑問を抱くことになる、智也と雄介の通う大学の学生。仕事がうまくいかない中、旧友たちの目覚ましい活躍を見て絶望する中年ディレクター。――彼らを含めた6人の視点で物語は展開される。

■「生きがい」は決して大きな目標や課題ではない

 彼らの中で私が共感したのは、大学生の与志樹。「注目を浴びたい」「特別な存在になりたい」「人より優れた何かが欲しい」…そう考える与志樹の心の中には、いつも他人との比較があった。

「お前は今、どれだけ注目されてるの?
社会のために何かしてるの?
価値のある人間なの?」

 こうやって、常に周囲の目を介して自分を評価する与志樹。人から注目が集まるのがうれしかった彼は、好きな音楽に伝えたいメッセージをのせるデモ活動に執心する。けれども、学友との会話を通して、ただ承認欲求を満たすためだけにデモ活動を使っていた自分に気づく。

 生きがいを見失った与志樹は、ホームレス支援のNPOで奔走する同級生・めぐみをサポートすることになる。彼女に協力し、同じ時間を共有することによって自分の生きがいを見出していくのだ。

「俺、何百人のホームレスが救われることより、目の前の人のクマが消えるほうが、生きる意味とか、生きがいとか、感じられるかもしれない」

 やがて生きがいを見つけた与志樹のこの呟きに、私は心に引っかかっていた何かが取れた気がした。生きがいとは、難しいものではない。たとえば「大切だと思うものを大切にする」。そんなシンプルなものでもよいのだ。自分のいきがいには、大きな意味も名目も必要ない。他人に関係なく、「自分が心からやりたいと思うこと」「考えるとうれしくなること」「たったひとりのためにアクションを起こすこと」…それが私にとっての生きがいなのだ、と彼に教えてもらった気がした。

 生きがいを求めてもがき、悩む私たち。本書は、生きがいを考えるうえでのヒントを与えてくれるだろう。先の与志樹だけでなく、他の登場人物たちのそれぞれの葛藤も、読者を導く一助となるはずだ。いろいろな価値観が溢れるなか、自分はどのような指標をもって生きていくべきか。平成が終わり、新しい時代が幕を開ける今だからこそ、ぜひ本書に触れて考えてほしい。

文=冴島友貴