伊坂幸太郎の新作は嫁姑バトル!? 伊坂ワールド全開痛快エンターテインメント小説

文芸・カルチャー

2019/4/28

『シーソーモンスター』(伊坂幸太郎/中央公論新社)

「愛している人の親だから、大事にできるに決まっている」。そんな甘い考えを持っていると、痛い目をみるのが、嫁姑問題だ。そもそも、人と人との関係は難しく、どういう人間が相手だとしても、すれ違いや衝突は避けられない。だが、一般的な人間関係のトラブル以上に、嫁姑間には、摩擦がつきもの。間に挟まれた男としては、解決しようのない問題に頭を抱えてしまうだろう。

 伊坂幸太郎氏著『シーソーモンスター』(中央公論新社)は、出会うべきではなかった人と人との出会いと対立を描き出した作品。1冊の中に2編が収められており、表題作「シーソーモンスター」では、昭和バブル期の嫁姑バトルを、「スピンモンスター」では、近未来を舞台に、不慮の事故で家族を失った2人の男のバトルを描き出している。

「日米貿易摩擦が新聞を賑わせていますが、その一方で、我が家の嫁姑摩擦は巷間の話題になることもなく」

 こんな出だしから始まる、「シーソーモンスター」は、特に惹きつけられる作品だ。舞台は、バブルに浮かれる昭和末期の日本。製薬会社に勤めている北山直人は、妻の宮子と母のセツの3人で暮らしているが、毎日のように繰り広げられる、嫁姑問題に悩まされていた。宮子も、同居前までは、セツとうまくやっていく自信があったのだが、いざ一緒に暮らしてみると、相性は最悪。ある日、ふとしたことから宮子は、セツに対して、ある疑念を抱く。直人と結婚する前にしていた仕事柄、細かな点や疑問が気になってしまう宮子。セツが隠している秘密とは何なのか。調べを進めるにつれて、北山家は、次第に大きな事件に巻き込まれていく…。

「嫁姑バトルを描いている」というと、もしかしたら、嫁が一方的にいじめられるような、気が滅入る物語を想像してしまうかもしれない。だが、この物語は全く違う。むしろ、こんなに爽快な物語はないのではないか、とすら思わされる。伊坂幸太郎氏といえば、“地上から数センチ浮いた”日常で起こる不思議な出来事を物語にする作家として知られるが、この本も同様。嫁姑問題を描いた日常の物語かと思って、共感しながら、物語を読み進めていくと、突然、思いがけない事実が明らかになる。すると、この本は、一気にミステリーに早変わり。テンポの良い会話と、抜群のスピード感。美しく回収されていく伏線の数々。伊坂幸太郎氏が描く女性はどうしてこんなにもカッコ良いのだろう。魅力的な登場人物たちの活躍。少しの油断もできない駆け引き。アクションシーン…。思わず、ページをめくる手を止めることができなくなる。

「どうしても対立せずにはいられない相性があるんです。海の血を引く人間は山の血を引く人間と出会ってはいけません。否応なく、ぶつかり合うことになるんですから。決して分かり合えません。」

「熊とうまくやっていけるのは、熊の恐ろしさを知っている者です。愛があれば動物とうまくやっていけるはず、と無邪気に信じる心の美しさではありません。」

『シーソーモンスター』は、時代ごとの「対立」を描き出す文芸競作企画「螺旋プロジェクト」から誕生した作品でもある。平成時代の「対立」を描いた、朝井リョウ氏著『死にがいを求めて生きているの』や、中世・近世時代の源平の「対立」を描いた天野純希氏著『もののふの国』などと、同じ登場人物や同じモチーフが登場するのも面白い。他の作品と比較しつつ、何度でも味わえる。

 出会ってはいけない2人が出会ったとき、世界の均衡は崩れ、物語は暴走する。出会うべきではなかった人と人との出会い、対立が描かれたこの物語の爽快な読後感をぜひあなたも味わってみてほしい。

文=アサトーミナミ