「フランダースの犬」最終回でネロとパトラッシュが見たルーベンス。その絵の見方を紹介

文芸・カルチャー

公開日:2019/5/21

『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』(秋田麻早子/朝日出版社)

 ここ数カ月、暇を見つけては美術展に足を運ぶのがマイブームになっている。帰り際に気に入った図録を購入したり、書店で画集を衝動買いしたりすることも珍しくなくなった。…とはいえ、私には美術の知識がまったくない。そのくせ、「美術は感覚で見るものだ」と開き直っている。だが、本当は目の前にある絵の優れた点をロジカルに理解したいとも思っていた。

 そういった“絵の見方や読み取り方”を教えてくれるのが、本書『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』(秋田麻早子/朝日出版社)だ。「この絵の主役はどこ?」「前情報なしに絵を見るとき、どう視点を動かしたらいい?」など、自分で判断しながら絵画を見るためのコツが段階的に解説されており、読み進めていくと「絵を見る技術」が自然に身につく構成になっている。

 本稿では、ルーベンス作『キリスト降架』を例に、絵を分析する際の主なポイントを3つ紹介しよう。名作アニメ「フランダースの犬」で主人公のネロが憧れ続け、愛犬パトラッシュとともに息を引き取ったのが、この絵の前だ。

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▲『キリスト降架』ルーベンス(1611~14年制作)
アントウェルペン、聖母大聖堂

■1.フォーカルポイント

 これはその絵の主役のことで、作者が一番に見てほしいと思っている部分。この絵では、画面中央のキリストがフォーカルポイント。キリストだけにスポットライトを当て、明暗を分けることで目立たせている。

■2.視線誘導

 絵の画面内には、見る順路を示した「経路」が実は用意されている。フォーカルポイント(絵の主役)だけでなく、主役と背景との関連性を意識しながら目(視点)を動かせるかどうかが、美術の専門教育を受けた人とそうでない人の差だそう。この絵の場合は、中央キリストからスタートして「の」の字型に一周して見ることができる。

■3.バランス

 名画は必ず、線的・量的ともにバランスが取れているものだという。絵の背骨にあたる「構造線」は、縦・横・斜めの3種類のほか、カーブしているものや、構造線を支えるサブの線などもあり、それぞれの線種によって異なった印象をもたらす。この絵の構造線は、右上がりの対角線(斜め)で、動きのあるダイナミックな印象だ。

 一方の量的なバランスとは、絵の中の各要素の「見かけ上の重さ」を、天秤にかけたように感じ取ることを言う。この絵の場合、中央より左側の人数が多いため、中央右下に梯子や、茨の冠と釘が置かれた皿といったテーマに欠かせない重要モチーフを描くことでバランスを取っている。

 このように絵画の造形要素を丁寧に観察することで、「なんとなく好き/嫌い」という感情に留まらない、客観的な分析ができるようになる。とはいえ、著者は本書の中で「好き嫌いを感じることと、造形が成功しているかどうかを理解することは別」と記している。

“構図という観点から造形要素を分析していくと、どうして自分がそのような印象を受けたのか、ふいに納得する瞬間が訪れます。謎解きを楽しむためにも、最初の生の印象を大事にしてください。”

 私は本書を読みながら、自分好みの絵の“共通点”について考えていたのだが、それを見つける前に、自分があまり好きになれない絵の共通項に気が付いた。それは、たとえば大勢の人物が描かれているような、主役がわかりづらくて複雑な絵だ。そうすると、好みの絵の傾向にも気が付いた。画面に主役しか描かれていない「テーマと背景」が明確な絵がそれだ。ついでに色数が少ないものほど気に入りやすいことも発見。なるほど、「謎解きを楽しむ」とは、こういうことなのかもしれない。

 このような自分の価値観・美意識を知るための方法が、本書のあとがきでも紹介されている。「絵の見方には、人柄が出る」という。自己分析の手段として自分でも取り組んでみると、思わぬ発見があるはずだ。

文=上原純

■本書の発売記念イベントを5月29日に東京・渋谷で開催

・日時:2019年5月29日(水)19:00~20:30
・場所:BOOK LAB TOKYO ――書店とコーヒースタンド 渋谷店
    東京都渋谷区道玄坂2-10-7 新大宗ビル1号館2F
・参加費:一般参加=2,500円、一般参加(書籍付き)=3,800円
・詳細・お申込: https://peatix.com/event/664167