今、ホットケーキ繁盛店ガイドを読めば「ビジネスのツボ」がわかる。そのワケは?

ビジネス

2019/5/24

『「ホットケーキの神さまたち」に学ぶビジネスで成功する10のヒント』(遠藤功/東洋経済新報社)

 あなたは、お店でホットケーキを食べたことがあるだろうか。専門店が流行したパンケーキとは違い、ホットケーキにはなんとなく「家で食べるもの」というイメージがある。ちなみに、ホットケーキとパンケーキの違いは、“甘さ”と“膨らみ”にある。ホットケーキは、ふっくらした甘い生地そのものを楽しむもの。それに対して、パンケーキは、焼き上がりが薄く、味も抑えられていて、スイーツや食事に合うように作られている。

 母親が買ってきてくれたホットケーキミックスを使い、家族でわいわいしながら作った記憶は、多くの日本人が共有しているものだろう。だから、筆者も「ホットケーキをわざわざお店で食べる」という発想自体がなかった。だが、本書『「ホットケーキの神さまたち」に学ぶビジネスで成功する10のヒント』(遠藤功/東洋経済新報社)を読み終えた今、お店のホットケーキが食べたくて仕方がなくなっている。

 本書で紹介されているのは、昔ながらの味にこだわる店から、現代風に進化を続ける店まで、31の名店だ(筆者は早速、勤務先近くの店舗に行く約束をした)。そして、なんと本書は、ただの“ホットケーキ本”に留まらない。あなたの仕事のヒントにもなる“ビジネス書”なのだ。経営コンサルタントである著者は、繁盛しているホットケーキ店を例にとりながら、わかりやすくマーケティングや経営戦略について教示してくれる。本稿では、そこから2つの項目を取り上げたい。

■ホットケーキ市場は、ブルー・オーシャン!?

 まずは、「市場」について。流行したパンケーキ店がいたるところにひしめく中、「家で食べる」イメージの強いホットケーキの店は少ない。著者によれば、首都圏にある個人経営の店は、わずか40店舗ほど。これは、「ブルー・オーシャン」市場である。ブルー・オーシャンとは、一般的には「誰もいない青い海」、転じて経営戦略論では「競合相手のいない未開拓領域」を意味する。反対にパンケーキは「レッド・オーシャン」。血で血を洗う、競争が激しい市場だ。パンケーキのような流行りの市場に後から参入するよりも、競争が激しくないホットケーキのような市場に参入するほうが、経営はうまくいくかもしれない。

■「ありふれたもの」でも差別化できる

 次のキーワードは、「差別化」だ。ホットケーキの繁盛店は、どこもホットケーキというシンプルな食べ物に工夫を凝らし、“ここでしか食べられないもの”を作り上げている。本書で紹介されている東京・外苑前「カフェ香咲」の店主は、著者に対してこう語ったという。

「どこにでもある定番がめちゃめちゃ美味しかったら、必ず売れます」

 これは、家庭で食べることが多い「おにぎり」などを想像すればわかりやすいだろう。ホットケーキやおにぎりは、たしかに「ありふれた商品」である。だが、お店でそれらを食べたとき、家で真似できないくらいに美味しかったら…。商品がありふれていても、その「味」がありふれていなければ、付加価値はぐっと高まるだろう。

 本書のビジネス書パートには、他にも「立地」や「クチコミ」、「お客様目線」などの項目が用意されわかりやすく解説されている。前半の名店紹介パートを読んでから順に進むと、普段ならとっつきにくいビジネスに関する話題もスッと頭に入ってくるだろう。まさに「1粒で2度おいしい」、贅沢な本である。

文=中川凌