これがブスの原点だ… 「ブスに厳しいブス」カレー沢薫による家庭生活エッセイ!

エンタメ

2019/5/26

『ブスの家訓』(カレー沢薫/中央公論新社)

 漫画家やコラムニストとして活躍する作家・カレー沢薫(かれーざわ・かおる)氏は、その名前や作風から男性だと思われることも珍しくはないが、実は結婚生活8年目の人妻だ。ちなみに本人によれば、ブス生活は36年目。年齢は36歳。つまり「生まれてこのかたブス」ということだ。“非・リア充”を名乗る彼女に自分が既婚者であることは関係ないし、ブスはあくまでブスとして暮らすのだ。

 そんなカレー沢氏がこのたび繰り出したエッセイが『ブスの家訓』(中央公論新社)である。本書は、自らの家庭生活を綴ったリアルなエピソード満載の1冊だ。生まれてから結婚するまで育った実家、そして現在結婚生活を送っている家での暮らしが綴られている。

 本書の元となった連載がウェブサイトで開始された当時、Twitterのタイムラインが少しザワついた。なぜなら、それまでカレー沢氏が自らの育った家や環境のことを書くことは皆無に近かったからだ。なんだかいきなりプライベートを覗いてしまった感に、ファンたちは「いいのか?」とドギマギした。けれどもやはり、その家庭生活のエピソードは笑えたり頷けたりするものばかりだった。その後、夫との現在の暮らしも綴られるようになり、すっかりファンの楽しみな連載のひとつとなった。

 ここでいう「ブスの暮らし」とは何だろうか。それは“怠惰”という言葉に集約されるだろう。重要なのは外見というより、内面のブス性である。怠惰に加え、欲や虚栄心があり、クズなところもあるが、攻撃性はなく人畜無害な姿をしている。そんな、なんともいえない感じが“内面のブス”であり、そんなブスが送るのが「ブスの暮らし」ではないだろうか。

 家庭生活と聞いて一番に思い浮かべるのは“家事”だろう。「ブスの家事」という題の興味深い章を覗いてみると、カレー沢氏の家事の不得意さが次々と明るみに出る。「私ははっきり言ってメシマズ嫁である」とのことたが、美味いマズいではなく、そもそも出す飯が腐っているという次元だ。

夫は好き嫌いがなく、そんなに料理にケチをつけることはないが、腐っていることに関してだけはシビアだった。むしろそこにシビアにならなければどこで厳しくなるんだという話であり、言わないと自分の健康がシビアなことになってくるのだが、しかし、それにしても腐りすぎなのである。

 カレー沢氏は長らく会社員と作家との兼業生活であったが、この連載の途中で会社員を辞め専業作家となった(本人に言わせれば“無職になった”)。かねてより「売れっ子になったら会社を辞める」と公言していたため、このたびの退職は“ついに!”といった感はあったが、実際に退職した理由はそんなポジティブなものではないとのことだ。だが、非・リア充の代表作家という、人生のシビアさを物語る立場にとっては、説得力が増した一件ではないだろうか。

 本書には、生活する上での“不器用なあるある”が存分に記されており、読者によっては「これ、私だけじゃなかったのか」と共感できる部分も多いだろう。もちろん、いつものキレッキレで笑える文章は顕在で、1冊まるごと楽しませてくれる。「無理にキラキラ生きなくても、実は十分楽しい世界に生きているのでは」と思わせてくれる心強い作品である。

文=ジョセート