“中華後宮もの”ファンにも、ジャンル初心者にも!『後宮の夜叉姫』が面白い3つのポイント

文芸・カルチャー

2019/5/27

『後宮の夜叉姫』(仁科裕貴/ KADOKAWA)

 人気のジャンル“中華後宮もの”。華やかな舞台設定、異国情緒香る描写は、これまでも安定して愛されてきた。ここで紹介する『後宮の夜叉姫』(仁科裕貴/ KADOKAWA)も、大きなくくりは“中華後宮もの”だ。本作が、王道の魅力はもちろん、新しい切り口でも楽しめる理由を、3つのポイントから紹介しよう。

■応援したくなる! がんばるヒロイン×流行のあやかし要素

 主人公は、亡き母の願いでもあった「官吏となって国に尽くすこと」を夢見て、故郷の里からはるばる綜の国の都までやってきた少女・沙夜。だが、官吏登用の試験を受けられるのは男子だけだ。官僚にはなれなくても、女官になって国のために働くことはできるかもしれない……そう考えて後宮に入ったが、そこは権力と策謀が渦巻く世界だった。

 ある日のこと、沙夜はとある事情から、人喰いの鬼──“夜叉”が棲むと噂の殿舎で一夜を過ごすことになる。夜が明けてみれば、彼女は皇帝陛下暗殺の嫌疑をかけられていた。それを知った沙夜は、昨夜泊まった殿舎で出会った、絹のごとき白髪の美青年のもとへと駆け込む。沙夜には、周囲の人たちには見えない、妖異神鬼の類が見えていたのだ。

 ハクと名乗ったその青年は、母の形見のかんざしを持って現れた沙夜に対して、果たさなければならない約定があるという。その昔、沙夜の親が彼に願ったのは、“我が子の幸せ”。つまりハクには、沙夜を幸せにする義務があるという。

■魅力的なキャラが勢ぞろい。ライトミステリ仕立ての展開も新しい

「面倒臭い」が口癖のハクだが、その正体は、知識を司る神獣・白澤だ。人前に出るときは白猫の姿をしていて、それはもう手触りのいい“魔性の猫”でもある。さらに宮廷内には、クール系のエリート男子・緑峰、ミステリアスな宦官男子・綺進ら、一癖も二癖もあるキャラクターが続々と登場して飽きさせない。

 白澤の弟子となり、知識を蓄える沙夜のもとには、後宮で起こる怪事件の相談が持ち込まれるようになる。沙夜は、事件の現場に足を運び、白澤の知恵を借りながら、事件の真相、複雑に入り組んだ人の心、みずからの出生の秘密を解き明かしていくことになるのだが……?

■気鋭の著者による、王道×人気の新要素=温故知新エンターテインメント!

 いつの時代も、変わらないなと思うものがある。夢に向かってひたむきにがんばる少女の愛らしさ、王者の孤独、権力に群がることの浅ましさ、親が子に向けるまなざし。どんな舞台設定でも、無条件にときめいてしまうものがある。異国の景色、人智を超えたものとの出会い、無愛想だけれど誠実なイケメン、知識を生かして謎を解き、人の役に立てること。そんなオイシイ要素てんこ盛りのジャンルが、“中華後宮もの”であると言えよう。

 著者は、人気シリーズ『座敷童子の代理人』や、実写映画化も決定している『初恋ロスタイム』(ともにKADOKAWA/メディアワークス文庫)で注目されている仁科裕貴氏。王道ど真ん中を貫きながらも、人気の新要素を織り込んだ『後宮の夜叉姫』は、“中華後宮もの”のファンも、これから読んでみようという人も存分に楽しめる、まさに温故知新のエンターテインメント小説だ。

文=三田ゆき