『ナウシカ』から『マーニー』まで! ジブリの屋台骨・鈴木敏夫が語る天才たちの真実

マンガ・アニメ

2019/5/31

『天才の思考』(鈴木敏夫/文藝春秋)

 宮崎駿と高畑勲。「子供だましの動く紙芝居」とバカにされていたアニメーションを、国が誇る文化にまで押し上げた二大巨頭だ。

 そんな彼らを、側で見守り、支え、時には導いてきた人物がいる。スタジオジブリの名プロデューサー・鈴木敏夫、その人だ。

 本書『天才の思考』(鈴木敏夫/文藝春秋)は、鈴木がアニメ業界で過ごした半世紀近い年月の思い出を語るクロニクルである。

 とはいえ、アニメ畑生え抜きの両巨匠とは違い、鈴木はほとんどもらい事故のような成り行きでアニメの世界に入った。なにせ、最初のキャリアは「週刊アサヒ芸能の記者」なのだ。ヤクザ武勇伝やセックス記事満載のあのアサ芸である。アニメとは程遠い世界で、時には警察に呼ばれたり、ヤクザに出刃包丁を突きつけられたりしながら記事を書いていたというのだから驚くほかない。

 だが、そんな修羅場を経験していたからこそ、あの2人と正面から対峙できたのかもしれない。鈴木が回想する宮崎と高畑の姿は、そう思わせるに十分なほど壮絶だ。

 超然と我が道を行くようで、実は細心な宮崎。徹底した合理主義者であるがゆえに、こうと決めたら梃子でも動かぬ高畑。普通の人間なら3日も共にいれば胃に穴が開きそうな個性の塊と、鈴木はずっと一緒に仕事をしてきた。

 どうすればそんな偉業が可能なのだろう。

 そんなことを思いながら読み進めていくうちに、だんだんわかってくる。

 鈴木もまた一種の天才だ、ということが。

 彼は「どんな状況でもおもしろがれる天才」なのだ。

「宮崎と高畑の通った後はペンペン草も生えない」とまで言われたアクの強さに振り回されながらも、冷静に観察・分析して、操縦方法を会得していく。

 たとえば、同時進行で始まった『となりのトトロ』と『火垂るの墓』の制作で、宮崎と高畑が作画監督の取り合いをした時には、鈴木は状況を見極めて、プロデューサー権限で高畑に軍配を上げる。結果、宮崎は激怒してトトロの制作をやめるとまで言い出すが、鈴木はまったく動じない。自分がどんな風に振る舞えば事が収まるのかまで計算し、怒りを一身に受けるつもりで腹を括っていたからだ。

 さらには、まったく未経験だった映画の宣伝や、古巣である徳間書店の不良債権処理まで、あらゆる難題を押し付けられていく中で、時には弱音を吐きながらも突破口を見つけていく姿は、まるでドラマのようにスリリングだ。

 いいものを作れば売れるほど単純ではないエンターテインメント業界で、3人の天才のたちが何を考え、どうサヴァイヴしてきたのか。誰もが知りたいその究極の答えは、実は「自分自身が楽しむ」以外にないことを本書は教えてくれる。

 軽やかな語り口の裏に隠れた血のにじむような苦労を思うと、今後ジブリ映画をカウチポテトで見るわけにはいかない気分にもなるが、それでもやっぱり「楽しむ」ことが大事。

 仕事ってなに? という根本的な問いに迷う人にこそ読んでほしい一冊である。

文=門賀美央子