14歳と17歳、2人の少女が「アメリカを見る旅」へ…彼女たちが行き着く先には一体何が?

小説・エッセイ

2019/6/10

『彼女たちの場合は』(江國香織/集英社)

 14歳と17歳。どちらも未成年の少女が家を出て、2人で「アメリカを見る旅」に出る。『彼女たちの場合は』(江國香織/集英社)の2人の主人公、逸佳(いつか)と礼那(れいな)は従姉妹同士で、礼那の両親と共にアメリカで生活している。逸佳は日本で両親と暮らしていたが、アメリカ留学のため従妹の家で世話になっているのだ。ある日、礼那の母親・理生那(りおな)が娘の部屋に入ると、そこには「これは家出ではないので心配しないでね」という置き手紙が残されて少女たちの姿がなくなっていた。

 一見無謀とも思える2人の旅だが、読み進めていくうちに少女たちのどこか大人びた、冷静沈着な態度や行動に驚かされる。14歳といえば日本の中学生にあたる礼那も、ホームシックになることなく純粋に従姉との旅を楽しんでいるようなのだ。娘たちがいなくなったことについて、それぞれの両親の反応は異なるものだった。もともとトラブルメーカーだった逸佳の両親や理生那はどこか2人の旅を面白がっている節があるが、礼那の父親・潤はありえない事態にただうろたえている。3人のあまりの鷹揚な態度に難色を隠しきれず、イライラしっ放しの潤。旅の資金は逸佳の両親が彼女に渡していたクレジットカードがすべてだったので、警察からはクレジットカードを止めれば帰ってくるだろうといわれるも、娘たちを路頭に迷わせることは憚られ仕方なくしばらく様子を見ることになったのだ。

 そんな潤の心配をよそに、2人の旅はどんどん進んでいく。ニューヨークからポートランド、ヨーク、キタリー、ニューハンプシャー州のマンチェスターと進み、ボストン、クリーヴランドとアメリカ大陸を西進。途中でさまざまな人たちと出会い、少女たちは目新しい経験をしていくのだ。当初は電車やバスを利用していたが、クレジットカードが限度額を超えて使えなくなるとヒッチハイクも試みる勇敢な2人。少女2人ということでほとんどの人が温かく手助けしてくれるが、なかには彼女たちを食い物にしようとする輩も現れ、危険な状況に陥ることもあった。

 人当たりの良いかわいい礼那に対して、逸佳は人付き合いが苦手なクールな少女だ。英語がうまく話せないこともあり、英語での人との対応はほとんど礼那に任せている。はじめは礼那が足手まといになるのではと思っていたが、礼那の素直さ・無邪気さに逸佳は幾度となく救われることになる。人は不安になるとき、そばで楽観的に笑っていてくれる人がいると安心することがあるが、2人の関係もまさにそうだったのではないだろうか。

 旅の資金を稼ぐため、シンシナティでは人生で初めての仕事を得る逸佳。クレジットカードが使えなくても両親に泣きついて旅を終わらせるという考えは逸佳にはまったくないのだ。自分ならどうしただろうと考えると、彼女のたくましさに脱帽するしかない。本書では、2人が旅の途中で出会う魅力的な人々にもぜひ注目したい。さすが個人を尊重するアメリカ、未成年の2人を温かい目で見守りながらも、一人の人間として扱い関係を築いていくあたりは単純に羨ましいと感じた。もしかしたら、このような旅は日本ではできていなかったかもしれない。

 読み進めていくと、まるで自分も一緒に彼女たちと旅をしているような感覚に陥る。アメリカのさまざまな街を訪れ、魅力的な人々と出会い、未知の経験をする。しかし本書はただの冒険物語ではない。アメリカを見ることは、逸佳にとって唯一自分から希望することだった。初めて自分の意思を以って行動する少女の内面を覗き見ることで、読者も勇気をもらえるのではないだろうか。また、一見無謀にも思える旅をする少女たちを信じ続ける理生那の強さにも感動するはずだ。果たして2人が行き着く先は? 江國香織さんの2年ぶりの長篇小説となる本書をぜひお楽しみいただきたい。

文=トキタリコ