彼女持ちの12歳年下イケメンの子供を妊娠! 四十歳で未婚出産はありかなしか

文芸・カルチャー

2019/6/17

『四十歳、未婚出産』(垣谷美雨/幻冬舎)

 テレビドラマ化した『結婚相手は抽選で』、タイトルがすでにリアルな声になっている『姑の遺品整理は、迷惑です』(ともに双葉社)など、世の中を鋭くとらえ、ユーモラスに描き出す小説家・垣谷美雨さん。そんな彼女による、現代の女性に向けたエールのような作品がある。『四十歳、未婚出産』(垣谷美雨/幻冬舎)だ。

 旅行代理店で働く宮村優子は、この冬で40歳。企画部に所属して17年、年若い部下を見ていると上司との不倫に費やしてしまった20代後半を思い出すけれど、現在はその相手とも別れ、仕事に邁進する日々だ。ところが優子は、その年若い部下──28歳のイケメン・水野匠と、団体ツアーの下見に訪れたカンボジアで、うっかり男女の関係になってしまう。

 結果、妊娠検査薬の反応は陽性、産婦人科でも「八週目に入ったところです」。若く美しい恋人がいる水野を苦しめる気はさらさらないし、問題の夜は酔っ払っていたとはいえ、合意の上で及んだ行為だ。被害者面をするどころか、ひさしぶりに触れた男の肌を思い出すたびに頬が熱くなる。

このまま何も言わずに、こっそり堕ろすべきではないのか。
未婚の母になったりしたら苦労するに決まっている。
でも……自分にはもう何年も前から恋人がいないし、年齢を考えると、子供を産む最初で最後のチャンスだ。

 堕胎するなら早いほうがいい。けれど、ふとしたときに、お腹の子をかばっている自分もいる。誰かに相談してみたい。でも、水野には言えない、身内にも言えない。長年の不妊治療の末、子供を持つことをあきらめた同僚に話すなどもってのほか。妊娠に伴う体調不良を押して出勤しても、妊婦を「腹ボテ」と呼ぶ化石のような上司をはじめ、同僚たちは、職場のワーキングマザーに対して冷ややかだ。しかし、未婚の母になるのなら、この会社で働き続けなければならない。噂が早く、父なし子に奇異の目を向ける田舎には、絶対に帰れない。

 産むべきか、堕ろすべきか。水野や周囲に話すべきか、黙るべきか。迷っているあいだにも、お腹の子供はどんどん育つ。はたして優子は、お腹の子の命と自分の生き方に、どのような決断を下すのか…!?

 テンポよく進むストーリーの中には、「いるいる、こんな人!」とうなずいてしまうセクハラ思考で嫌味な上司や、「男社会で働くって大変だよねえ」とため息をつきたくなるシーン、バリキャリと専業主婦それぞれの苦労、嫁姑や母娘の関係など、どんな女性でも共感できるモチーフがちりばめられている。最後の行にたどり着いたとき、ふと笑ってしまうエスプリのきかせ方も、女の目で女を見ることができ、酸いも甘いも噛み分けてきたのだろう著者ならではのものだ。

 現在、職場でのハイヒール強制を考える「#Ku Too」運動が盛り上がっているが、本来なら、ハイヒールも出産も働き続けることも、女性が個々の判断で選べるもの。本作を最後まで読むと、作家・垣谷美雨は、女性はもちろんすべての人が、そういった自分の選択と、それを誇りに思える社会の実現を願っているように感じられる。

 現代を生きるすべての女性、そして生きづらさを抱えるすべての人におくる、痛快な応援小説。疲れた心が、きっとやさしく励まされます。

文=三田ゆき