「夫が邪魔でたまらない!」人生の墓場に迷い込んだ女性たちを待ち受けるどんでん返し

文芸・カルチャー

2019/7/1

『夫が邪魔』(新津きよみ/徳間書店)

「結婚は人生の墓場」と口にする男性は多い。だが、心の底から本当にそう思っているのは、実は男性よりも女性のほうなのかもしれない――。

『夫が邪魔』(新津きよみ/徳間書店)は結婚にまつわる愛憎劇が7編収録されている、ミステリー小説集。「結婚」という言葉はやはり魅惑的で幸福感を放っている。それはきっと、愛する人を独り占めできる幸せを意識させるからという理由もあるだろう。だが、結婚さえすれば、愛する人は本当に自分だけのものになるのだろうか? そして、同じ時間を隣でともに刻み続けることは“真の幸福”と言えるのだろうか?

 男と女は結婚を経て、変わっていく。特に女性は家事や育児など、家庭のことに力と心を注がなければならなくなることが多い。そんな日々に自分の人生の価値を見いだせなくなると、心の中に黒い感情が芽生えてしまうのはごく普通なことのようにも思える。

「夫さえいなかったら…」「この人が邪魔でたまらない」…本作には、そういった人には言えない女性の本音が凝縮されているのだ。

■夫が邪魔な小説家のもとに届いた、1通の奇妙なファンレター

 全7編の作品の中でも、一際結婚の“哀しさ”が描かれているのが表題作である「夫が邪魔」だろう。

 人気作家の朝倉夕子は、日頃から夫のことを邪魔だと疎んでいた。5つ年上の夫は一流企業に勤めており、堅実な性格。プロポーズの時には、夫婦で育児や家事を分担し、子どもたちに囲まれたつつましやかで平和な家庭を作ろうと囁いてくれた。

 しかし、流産の悲しみを癒すために書いた小説で夕子が新人賞を受賞したことを機に、夫は豹変。作家という職業柄、家にいる時間が長い夕子に対して掃除や買い物などの雑事を押し付けるようになった。

 160坪の敷地と7部屋あるマイホーム。それを綺麗に維持し続けることは至難の業だった。家事の手を抜けばすぐ向けられる嫌味。いつの間にか「君」から「おまえ」に変わった呼び方。妻を消耗させることで快楽を得ようとする夫を目の当たりにする度、夕子の中で黒い感情が日に日に大きくなっていく。

 そんなある日届いた、1通のファンレター。それは家事を手伝いたいと熱望する奇妙なファン・片山京子からのものだった。「仕事を思いっきりしたい」と願ってやまない夕子は京子と文通を始め、交流を図る中で次第に邪な考えを抱くようになる。2人の関係は徐々に、作家とファンではなくなっていく。

 この物語のラストに隠された、予想を裏切るどんでん返しで現れる真実にも読者は驚愕させられるはず。きっとあなたも読後には「騙された!」と口に出し、そしてニヤリとしてしまうだろう。

■愛していた事実があるから、夫が憎くなる

 本作に収録されている短編作品はどれも、結婚生活にある“リアルな日常”を巧みに描き出す。永遠を誓い合ったパートナーとともに生き続けていくことは、この上ない幸せのように思えるものだ。

 喉元過ぎれば熱さを忘れる、というものだが、かつての恋や愛の熱さもやがて忘れていき、薬指にはめ合った指輪の重みを軽視し始める。すると、永遠の愛とはほど遠い、身勝手に振り回される日々が訪れ、愛情は憎悪に変わってしまう。

 愛することと憎むことは、紙一重。そう教えてくれる本作はフィクションだが、結婚生活のリアルが詰め込まれている。他人同士がひとつの家族となるのは、微笑ましいことでもある反面、とても怖いことでもあるのだ。

文=古川諭香