「社長、明日から給料倍で!」が通用する国、インドのビジネス風景を覗いてみた
公開日:2019/7/9
「仕事の調子はどう?」と聞かれたらどう答えるだろうか?
「大変ですがまあ何とか」と曖昧に誤魔化す?
大阪の人なら「ぼちぼちでんなあ」と返す?
…どちらにしても日本人は謙遜気味に答えて、本当の事情はあけっぴろげにはしないだろう。しかし、所変われば価値観も変わるもので、インドでは、実際に儲かっているかどうかはともかく「最高!」「絶好調!」と誰もが答えるという。そんなインド人とのビジネス経験を綴ったのが、『お金儲けは「インド式」に学べ!』(野瀬大樹/ビジネス社)だ。
著者の野瀬氏はインドで会社を立ち上げ、日本企業のインド進出をサポートする会計士でもある。本書は「インドでビジネスをするとこんな雰囲気で、こんなことがきっとありますよ」と、現地の空気感を伝える貴重な体験談にあふれている。インドのビジネスというと、世界中で活躍するITについては多少知っているが、それ以外や全体像についてはよく知らないという人は私だけではないはず。では、早速、野瀬社長のインド生活を覗いてみよう。
■「もっと給料上げて」という要求はごく普通!?
決算が行われる3月、社長職には、従業員との熱いバトルを繰り広げなくてはならない「昇給交渉」が待っている。従業員たちは次から次へと「“ちょっと”お話があります」と社長室にやってくる。だがその話はちょっとどころではない。ひとり2、3時間は続くのだ。彼らは、自分がいかに会社に貢献し努力したかを訴え、「もっと給料を上げるべきだ」と主張する。相手が社長だからといって遠慮はない。社長は彼らひとりひとりと話し合い、ようやくその年度を終えることができるのだ。
さて4月からの新年度、やっと平穏になったと思いきや、仕事の合間にも彼らは社長に自分の意見を訴える。「給料が安い」「休みが少ない」。果ては、「こんな仕事はやりたくない」「俺の同級生はもう車を買っている」「友だちは社内旅行でモルディブに行ったらしい」「社長がこの前くれたお土産のお菓子はおいしくなかった」などなど。とにかく自分の求めるものをストレートに言ってくるのだ。
辟易してしまうほどの主張の強さ。雇用主からしたら面倒だろうが、日本で雇われの身として働いている者にとっては憧れる強さだ。しかし、何でこんな要求ができるのだろう? 国民性の違いといってしまえばそれまでだが、その違いはいったいどこから発生してくるのだろうか?
■「働かないでぶらぶらしている」人が白い目で見られない理由は?
本書によると、インドでは終身雇用という考え方がなく、多くの人が何度も転職するのが当たり前だそう。また、会社と従業員は対等な契約関係の立場であるという。だから、社長つまり雇用主を恐れる必要がないのだ。対等の立場で契約を結んでいる関係の人と、その契約内容について交渉して何が悪い? というわけだ。
終身雇用という考え方がないインド社会では、起業して失敗してまた起業して、と繰り返す人もたくさんいるし、働かないという選択も堂々とできるそうだ。しかも、働かなくても周囲から白い目で見られることはない。実際、何の罪悪感もなく、親と同居して親のお金で食べ、ぶらぶらしている大人も結構いる。それが可能な理由は、インドでは親族の中にひとりでも経済的な成功者がいれば、その人にしばらく面倒を見てもらうのは当然というのが常識だからだ。社会全体に、「身の回りの使えるものを使って何が悪い?」という態度が普及していることも一因だろう。
何だか楽そうでいいなと思ってしまうが、これはインドの波乱の歴史や急激な経済変動から生まれた風習だ。もともと格差があり、政府の福祉制度も行き渡っていない中で、インドでは家族がセーフティーネットの役割を果たしてきたのだ。困った時には家族親族に頼る。そのかわり、自分に余裕がある時には家族親族を養う。インドでの家族の絆は絶対だ。
現在、インド経済は右肩上がりの成長中、平均給与額も物価も上昇中だ。人々は、明日は今日よりももっとリッチになると信じている。そして、100点満点じゃないとしても、自分の儲かり具合が「絶好調!」と言えるおおらかさ。日本人がそのまま真似できるわけではないが、本書でその様子を読むだけでも元気になれること請け合いだ。
仕事を辞めるのも、起業の失敗も大局の中でみればどうということはない。失敗は非難されることではないし、仕事上の他人に無理に好かれようとしなくてもよい…。今の自分の常識は“世界の中の小さな1粒”でしかないことに気づかせてくれる。
文=奥みんす
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