実況のカリスマ・倉敷保雄が、処女小説でサッカーにまつわる少年少女たちの人生を実況する!

文芸・カルチャー

2019/7/9

『星降る島のフットボーラー』(倉敷保雄/双葉社)

 サッカーの実況アナウンサーの中でも、群を抜いて人気がある倉敷保雄さん。落ち着いた中低音の声、冷静で柔らかな口調、サッカーへの深い愛と豊富な知識で、観戦しながら、まるで物語を読み聞かせてもらっているような気持ちになる、実に稀有な実況アナウンサーです。

 私が倉敷さんを初めて認識したのは、もう10年以上前でしょうか。とある海外のサッカー実況の中で、選手が接触プレーの際に転び、ファウルをアピールしました。レフリーは正当なプレーだと判断し、芝生に転がる選手に人差し指を伸ばし、クイックイッ。その動きに合わせて、倉敷さんは「立ちなさい」とセリフを当てました。説明しなくてもわかる審判の身振りを「立ちなさい」のひとことで表現し、途切れず続いている試合へと、視聴者を引き戻したのです。瞬時の機転と技術、そして遊び心――サッカー選手に求められるものを、アナウンサーの倉敷さんは持っているのだと気づかされた瞬間でした。以来、倉敷さんの実況する試合を観ると「フットボール」を心ゆくまで満喫できます。

 そんな倉敷さんが書き下ろした処女小説が『星降る島のフットボーラー』(双葉社)です。

 物語の舞台は、ヨーロッパや北アフリカに近接する列島――7つの島で構成された列島には、星の名前をいただく7つのプロフットボールクラブがあり、「リーガ・ビア・ラクテア(天の川リーグ)」が開催されている。

「若手有望選手の見本市」として世界中のスカウトが熱い視線を注ぐ「天の川リーグ」で、プロへの第一歩を踏み出したのは、15歳の日本人フットボーラー・星野遥也こと「ハル」。幼馴染の少女・天美六花の父がオーナーを務めるエストレージャFCに入団したハルは、ひと癖もふた癖もあるチームメイトやスタッフとともに、ライバルチームと競い合い、プロ選手として高みを目指します。

 フットボールを舞台にした、ジュブナイルのようなファンタジーですが……この物語は、さわやかな青春ストーリーにとどまりません。「金の卵」である若手フットボーラーが集まる場所には、欲望と野望を持った悪の大人=マフィアが近づいてきます。とあるクラブを買収したマフィアは、強引な手口でリーグそのものの支配を目論見、より金儲けができる仕組みを作ろうとし、「正しいフットボール」を求めるハルたちのエストレージャFCに襲いかかるのです。

 マフィアの息のかかった審判、テレビ中継スタッフ、相手選手を潰すためだけに雇われたラフファイターの選手……ピッチに吹き荒れる不正の嵐。ハルたちは、クラブチームの存続をかけた運命の試合を迎えることになります。果たして、ハルたちは勝利し、未来を切り開けるのか? 不正まみれのリーグは浄化されるのか? そして、ハルと六花の幼馴染どうしの淡い恋の行方は――?

 サッカー指南書のような詳細なプレー描写あり、バトルマンガのような激しい戦いあり、クラブ事情に絡むリアルなバックヤード話(監督、オーナー、チームドクター、経営)あり、ボーイ・ミーツ・ガールの恋物語ありと、盛りだくさんな展開には驚かされますが、倉敷さんいわく「マフィアの話は半分本当。移籍市場のための島や国も、本当の話」。

 現実のフットボールそのものがファンタジーであり、ワンダーランドであることを知り尽くした倉敷さんならではの「超絶ボリューム」なのです。

 倉敷さんの永年の夢のひとつだったという小説。本作には、倉敷さんの中に積もりに積もった「フットボール」への情熱と知識と愛が詰まっています。

 小説を書き下ろすことになったいきさつや思いは、こちらのインタビューをお読みいただければ、より一層、本書を楽しめることでしょう。

 言葉にこだわりを持って、目の前で起きるフットボールの瞬間を伝え続けてきた倉敷さん。地名や固有名詞には、サッカーファンならニヤリとできる小ネタが満載で、情景描写や一文一文の表現にも、コレでもかと言わんばかりのこだわりを感じます。

 倉敷さんの頭の中では、世界のどこかに「天の川リーグ」が実在していて、ハルや六花をはじめとする仲間たちが、今もフィールドを駆けまわっているに違いありません。だからこそ、本書を読んでいるうちに、いつしか倉敷さんの朗読する声が聞こえてくるのです。

 そう、『星降る島のフットボーラー』は、小説という形をとった、フットボールにまつわる少年少女たちの人生を実況したものなのです。

文=水陶マコト