古墳の数はコンビニより多い!? 日本人にもっとも身近な世界文化遺産「古墳」のココが凄い!

文芸・カルチャー

2019/7/21

『考古学から学ぶ 古墳入門』(松木武彦/講談社)

 15万基以上。これは日本にある古墳の数だ。コンビニエンスストアの店舗総数の約3倍である。大山古墳(仁徳天皇陵・大阪府)や五色塚古墳(兵庫県)のように、教科書で目にした巨大墳墓だけが古墳なのではない。実は古墳は日本の各地、沖縄以外の46都道府県のありとあらゆるところにある、実に身近な存在なのだ(沖縄にも古墳に類する墓は存在する)。

 そんな古墳について教科書やニュースよりもっと踏み込んで知りたいときに手に取っていただきたいのが、『考古学から学ぶ 古墳入門』(松木武彦/講談社)である。

■古墳は生活に根付いた存在だった?

 現代まで長い年月を経て遺されてきた古墳は歴史的な価値を持つわけだが、3世紀から7世紀まで、つまり古墳が生まれた頃から古墳時代と呼ばれる最盛期の古墳は、現在われわれが思っている以上に“人々の生活”と密接にかかわる存在だったと本書は語る。

 人々が社会の在り方や世界観を共有する、今日でいう“メディア”のような役割まで、古墳が果たしていたというのだ。

 立ち入ることが出来ない墳丘の棺の真上にあった埴輪は、外からの視線を意識するように、次第に古墳周辺にも並べられるようになった。ビジュアルに演出された古墳は、人々の心に深く印象づけられただろう。

 馬や女性、建物のようにさまざまな形をした埴輪たち。ユニークな人形埴輪はお馴染みだが、ほかにもバラエティ豊かな形状のものが作られていた。儀礼や祭事、暮らしや営みを知ることができる。

 古代日本、見上げるような建造物など何一つない原野に造られた巨大古墳の姿を想像して欲しい。幾重にも並べられた赤い円筒埴輪は劇場のような空間を醸し出す。そこに暮らすすべての人々は、荘厳な気持ちになり古墳に葬られた王を崇める。古墳を中心に人々の心が、社会がひとつになる瞬間だろう。

■古墳を知ると古の人々の暮らしぶりがわかる

 巨大古墳は非常に大規模な造作物であるため、当時の労働にも密接に関係していた。著者が試算したところによれば、古墳時代に、古墳建設のために使われた金銭は、現在でいうと国民総生産の半分以上にも及んでいたという。

 平常時は農業を営み生活の糧を得る人々も、時期によって古墳造りに参加し、中には資材を運ぶといった単純作業だけでなく、そこに飾る焼き物や副葬品を作ったり、あるいは現場作業を指揮したり、エンジニアとして古墳造りそのものを生業にしていた者もいたのだろう。

 単に有力者から労役として強いられる以上に、古墳を造ることは、人々の生活に密接に関わっていた。これは現代における想像や推論ではない。古墳というと百舌鳥・古市古墳群の大山古墳のように当代一の権力者が埋葬されたであろう巨大なものを思い浮かべる方が多いかもしれないが、当時は中流以上の血縁集団や個人もまた小さな墳丘墓を造り、そこに埋葬されることが一般的だったのだ。

 著者の松木氏は、こうした古墳時代の人々のありかたについて本書冒頭でこう語る。

“どこを見ても古墳でいっぱいの景観の中で、古墳にまつわる親たちのさまざまな語りを聞きつつ育ち、やがては古墳造りに汗をかき、自らもまた古墳に眠ることになる人々。身も心も、彼ら彼女らは「古墳人」だったのです。こんな人々がいた不思議の国へ、この本では旅をします”

 そんな古墳の魅力は、とうとう世界的にも認められるようになった。2019年7月6日、アゼルバイジャンで開かれていたユネスコ世界遺産委員会において、大阪にある大山古墳などを含む49基の古墳によって構成されている「百舌鳥・古市古墳群」が世界文化遺産として登録されることが決定したのだ。

 この世界遺産登録の背景には、ただ巨大な墳墓がモニュメントとして評価されたわけではなく、著者が「古墳人」と称したように特徴的な社会政治構造が垣間見える資産として、そして開発の荒波にも飲まれず地域住民、行政の手によってきちんと保全がなされてきたことなどが総合的に評価されたという。

 本書は古墳の造形的魅力を入り口に、古墳の造り方やそこから発展する文化の広がり、当時の社会機構や身分制度の変遷、「なぜ古墳は造られなくなったのか」あなたの近くにあるかもしれない「古墳の見つけ方」といった考古学ならではのトピックスについても、豊富な図版とともにわかりやすく解説する1冊だ。

 世界的にも注目度が高まる今、本書を通じて、改めて“私たちにもっとも身近な世界文化遺産”である古墳のことを学びなおしてみるのもおもしろそうだ。

文=柳羊