「初恋の人を探してほしい」興信所に舞い込むワケありの“人探し”ーー再会は惨劇のはじまりだった…

文芸・カルチャー

2019/7/31

『初恋さがし』(真梨幸子/新潮社)

 人生でたった一度きりの「初恋」。この言葉に、甘く特別な響きを感じ取る人は多いだろう。もしできることなら、初恋の相手が今どこで、何をしているのかを探ってみたくはないだろうか?

『初恋さがし』(真梨幸子/新潮社)は、「初恋の人、探します」という目玉企画をもつミツコ調査事務所が舞台の連作短編小説集。著者はイヤミスの旗手、真梨幸子さんだ。

 舞台となるミツコ調査事務所は、所長、調査員が“全員女性”をウリにする興信所。興信所といえば不倫や浮気調査をするイメージが強いが、本書では「人を探してほしい」という依頼を請け負い、物語が進んでいく。

どうしても会いたくてたまらない「初恋の人」

 表題作の「初恋さがし」では、38歳の主婦から「初恋の人を探してほしい」という依頼がミツコ調査事務所に舞い込む。その主婦の初恋は小学校時代、相手は副担任の先生である。

 ふと思い出してからというもの、“寝てもさめても、先生のことで頭がいっぱい”になってしまったという。彼女にとって、先生はそれほど狂おしい存在だったのだ。

 本書はイヤミスでお馴染の真梨作品。表題作はもちろん、どの話も後味の悪い結末が待っている。読者の心情としては「探さなきゃよかったのに」と思わずにはいられない。しかし、一度よぎった「会いたい」という気持ちは、そう簡単に振り払えるものではないのだろう。たとえ、ろくなことにはならない…と分かっていたとしても。

依頼してくる相手が「いい人」とは限らない

 ミツコ調査事務所に“悪意”をもってやってくる依頼人もいる。人探しの依頼によって、よからぬことの片棒を担がされてしまうのだ。

 現実でも、人の“善意”を利用した悪質な人探しはある。ストーカー加害者がSNSで被害者の居場所を特定して事件に発展したニュースを覚えている人は多いだろう。

 依頼されて人を探し出すということには、犯罪の影がつきまとう。本書の後味の悪さは、こうした“生々しさ”に支えられている。

 ただでさえミツコ調査事務所を訪れる依頼人たちは、調査次第では高額になりうる依頼料を支払ってでも「探し出してほしい人」がいるのだ。それは簡単に“好奇心”や“悪意”という言葉で片づけられるものではなく、もっと奥深い、人間のどす黒い欲望を感じずにはいられない。

人が不幸になるほどおもしろい…これだからイヤミスはやめられない!

 仕上げとばかりに本書のイヤミス度を格段に上げるのが、ミツコ調査事務所の人間模様だ。

 調査事務所のウリであるはずの“所員全員が女”という人間関係は、上辺だけでは分からないドロドロとした淀みを抱えている。こじれた人間関係は、新しい悲劇を生み出していく。

 依頼人たちのどす黒い欲望や、ドロドロとした人間関係。これらを短編小説で少しずつ覗き見ることができる本書には、悪趣味だが読み進めずにはいられない誘惑がある。“人の不幸は蜜の味”というイヤミス作品の醍醐味ともいえよう。

 とにもかくにも初恋は思い出の宝箱にそっと入れて、決して取り出してはいけない。これが、本書での一番の教訓である。

文=ひがしあや