誰にでも起こりうる「トラウマ」の影響から逃れるカギは? 生きづらさを克服するためのヒント

健康・美容

2019/8/9

『トラウマのことがわかる本 生きづらさを軽くするためにできること』(白川美也子:監修/講談社)

 何らかの辛い体験を味わったのち、深い傷として心の中に残りうる「トラウマ」。心理学では「心的外傷」と称される。災害や虐待など非日常的な恐怖体験がトラウマとなり、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」を患う場合があることはよく知られている。虐待やネグレクト、DV、言葉の暴力など日常的にくり返される出来事が心に傷を残し、より複雑な影響を与えることもある。

 トラウマの対象は広範囲に及ぶが、「心に傷を残すような体験のこと」と定義を解説するのは、精神科医の監修による『トラウマのことがわかる本 生きづらさを軽くするためにできること』(白川美也子:監修/講談社)。そのメカニズムや克服するまでのヒントをわかりやすく伝える1冊だ。

■トラウマの影響に気づかぬまま生きづらさを抱えてしまう場合も

 心身にさまざまな影響を及ぼすトラウマ。本書によれば、要因となりうるのは「非日常的な恐怖体験」だけではない。ごく身近な人との間でくり返されてきた出来事もまた、心により複雑な傷を残すという。とくに子どもの頃に負った心の傷は広範囲な影響を及ぼす。感情のコントロールが難しくなり、自己否定感を強めたり、対人関係の問題を抱えやすくなったりもする。結果的にトラウマを抱えてしまう場合もある。

 一方で、いま苦しんでいる症状と、これまでの体験が関連しないと思われることもある。周囲の人だけでなく、自分自身ですら「そんな昔の体験と現在の悩みは関係がない」と考えがちだ。トラウマの影響に気づかないまま、日常生活の中で“心の傷”から心身の変調が生じて苦しんでいるケースが少なくない。

■闘争か逃走か、もしくは凍りつきか…。危険な状況下でみられるストレス反応

 トラウマは「心の傷」というが、じつは身体的な反応を引き起こすものでもある。人は心身の危険を感じると無意識に身体的な変化が生じるというが、そこで紹介されているのが「三つのF」と呼ばれるだれにでもみられる生理的なストレス反応だ。

 心身の安全が脅かされる状況では、脳の働きからストレスホルモンが分泌され、交感神経の働きが強まり、血圧や心拍数、呼吸が乱れるという仕組みを本書では詳しく解説する。その後の行動は3パターンに分かれる。危険に立ち向かい「Fight(闘争)」するか、危険な状況から逃れようと「Flight(逃走)」するか。そのどちらも難しければ凍りついたかのように動けなくなる「Freeze(凍りつき)」の反応が生じるという。

 通常、危険な状況が去ればこうした反応は収まる。ところが、トラウマを抱えるといつまでも「危険は去った」「もう安心」という感覚が心の底から感じられなくなってしまう。結果として、ストレス反応が続きやすくなり、平常時にも現れやすくなる。

■「治すのは自分」と意識を持つことも回復の糸口に

 体にできたすり傷が自然に治るように、心の傷にも自然治癒力のようなものがあるというヒントもまた本書は提示してくれる。治療については医師や専門家に頼るにしても、当事者本人が「治すのは自分なんだ」と意識を持つことがより早い回復への糸口になるという。

 トラウマ性疾患の対処法は、現代の医学界で「十分に普及しているとはいえません」と本書は指摘する。しかしながら、辛い体験を重ねて生き延びながらも「今ここに存在しているというのは、それ自体が大きな強み」とも述べる。自分ひとりで何とかしなければならないと抱え込まずに、専門機関や精神科医らと一緒に自分を見つめ直すのが最善策といえるだろう。

 まず体の状態を安定させることが心の改善にも繋がるとする本書は、“起床後に日の光を浴びる”“夜はゆっくり風呂に入る”など、身近な生活習慣の見直しを通して回復のきっかけを得るためのノウハウも多数紹介する。用語に“外傷”とあるとおり、トラウマの原因はけっして当事者にあるわけではない。自分の、あるいは身近な人が抱えている今の生きづらさをわずかでも克服できるよう、本書をぜひ参考にしていただきたい。

文=カネコシュウヘイ